
中国共産党中央委員会と国務院は8月11日、「経済・社会発展の全面的なグリーン移行の加速に関する意見」を発布した。グリーンで低炭素な経済・社会発展を推進することは、共産党の新たな理念と実践の重要な象徴とし、中国の資源・環境・生態問題を解決するための基本政策であり、人類と自然の調和のとれた共存のための現代化建設の本質的な必要条件と表現した。文書は7月31日付となっている。
今回の意見では、カーボンニュートラル、汚染削減、生態系保全、サーキュラーエコノミーを盛り込み、国際的に重視されている環境概念を包括的に採り入れた。その上で、全方位・全分野・全領域でのグリーン変革、グリーン移行のタイムテーブル、ロードマップ、建設計画の科学的な設定、イノベーション強化、食糧とエネルギーの安全保障及び産業サプライチェーンの安全保障を効果的に保護することを基本方針とした。
2030年目標では、主要分野でのグリーン転換を積極的に進展させることで、グリーンな生産方式と生活様式の基盤を形成し、汚染削減、温室効果ガス排出量削減の相乗能力の大幅向上、主要資源の利用効率向上、グリーン発展を支える政策と基準の体系の完成度進展を進める。
2035年目標では、グリーン・低炭素・サーキュラーエコノミー型発展の経済システムの基盤確立、グリーンな生産方式と生活様式の普及、汚染削減と温室効果ガス排出量削減の相乗効果の大幅な進展、主要資源で国際的な先進レベルの利用効率達成を掲げた。特に、温室効果ガス排出量をピークアウトさせた後に着実に削減していくこととした。
具体策では、土地利用、産業構造、エネルギー、輸送、建設、農業、総合的環境保全、消費、科学イノベーション、政策、国際協力、政府ガバナンスについてアクションを定めた。
土地利用では、科学的かつ効率的な国土空間計画を全国統一で進め、耕作地及び永久基本農地、生態系保護レッドライン、都市開発地域の3つの土地区分を厳格に遵守させる。また、国立公園、自然保護区、各種自然公園等の自然保護区制度の建設を加速し、海洋資源の開発と保護でも制度を改革する。京津冀地域(北京市・天津市・河北省)、粤港澳大湾区(広東省・香港特別行政区・マカオ特別行政区)、長江デルタ地域では、グリーン発展都市モデルを確立する。
産業構造では、鉄鋼、非鉄金属、石油化学、化学、建材、製紙、印刷・染色等の産業のグリーン・低炭素化を強力に推進。省エネ・低炭素・クリーンな生産技術・設備、及び技術プロセスの更新・高度化を進める。土地、環境、エネルギー効率、水効率、温室効果ガス排出量に関する拘束力のある基準も継続的に更新していく。経済全体に占めるグリーン低炭素産業の割合を継続的に高め、2030年までに省エネ・環境保護産業の規模を約15兆元(約300兆円)にまで引き上げる。さらに、デジタル化とグリーン化のシナジーを追求し、電力システム、工業・農業生産、交通、建設・不動産でのAI、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、産業用インターネットの活用を進める。
エネルギーでは、化石燃料関連インフラについて「先ず設置し、次に壊す」を基本原則として重視。非化石エネルギーの設備投資を進めてから、化石エネルギー関連インフラを廃止していくとした。特に一般炭については、「第14次5カ年計画」期間中の石炭消費の伸びを厳しく合理的にコントロールし、今後5年間で徐々に減少させる。非化石エネルギーでは、太陽光発電、水力発電、陸上風力発電、洋上風力発電、沿海原子力発電等の建設を加速。バイオマス、地熱発電、海洋エネルギー等の開発も地域の実情に合わせて発展させつつ、分散型太陽光発電や分散型風力発電も積極的に展開していく。一方、石油や天然ガスの探査・開発は拡大し、埋蔵量と生産量を増加させ、石油・ガスの探査・開発と非化石エネルギーとの融合を加速するとした。二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)プロジェクトの建設も推進する。送配電は、調整電力として、ガス火力発電の配置を奨励するとともに、揚水発電、蓄電発電所、太陽熱発電も効率的に配置していく。2030年までに揚水発電の設備容量を120GW以上に引き上げる。
輸送では、複合一貫輸送の「ワン・シングル・システム」と「ワン・ボックス・システム」を進め、輸送効率を改善。さらに、貨物専用鉄道と内陸水路網の建設の加速、主要港湾、大型工業・鉱業地帯、物流ハブ地域での鉄道路線の建設も促進する。駅、空港、港湾、高速道路サービスエリアでは、ニアゼロ・カーボン化を進め、高速道路周辺で太陽光発電も行う。都市部では、公共交通機関車両のEV化を促進。歩道や自転車レーン等の建設も進める。2030年までに交通手段の売上単位当たりの原単位排出量を2020年比で約9.5%削減し、2035年までに新エネルギー車が新車販売での主流にする。電気自動車(EV)充電ステーションや、燃料電池車(FCV)向けの水素補給ステーション等のインフラも整備する。船舶や航空機では、電力のグリーン化、ゼロエミッション貨物輸送の促進、持続可能な航空燃料(SAF)とネットゼロエミッション船舶燃料の研究開発を奨励する。
建設では、新築物件でグリーンビルディングの割合を高め、超低エネルギー消費建築物の大規模開発を促進する。既存の建物や公共施設のエネルギー、水、二酸化炭素削減のための改修を加速させる。建物と太陽光発電の一体化建設も推進する。加えて、グリーン建築工法やグリーン建材の使用を優先させる。
農業では、農業と畜産の双方で持続可能な農法や畜産法を開発を推進。化学肥料や農薬等の農業投入物の削減と効率化も進める。藁、農業用フィルム、農薬包装廃棄物、家畜・家禽の糞等の農業廃棄物の収集・利用・処理でもサイクルを確立していく。藁の焼却に関しては取締りを強化する。
総合的保全戦略では、新規の固定資産投資プロジェクトでのエネルギー消費と温室効果ガス排出量の基準の厳格化、節水制度の厳格化、食品廃棄の防止、高効率な鉱物資源の探査・保護・開発の強化等を盛り込んだ。サーキュラーエコノミー化では、2030年までに、主要資源の生産率を2020年比で45%向上しつつ、粗大固形廃棄物の年間リサイクル量を約45億tにまで引上げる。
消費では、国民に対し、節水・節電、浪費や過剰包装や使い捨て品の使用の抑制、公共交通、徒歩、自転車等のグリーンな移動手段の優先利用を指導する。さらに、グリーン製品の供給を増やすため、製品のカーボンフットプリント管理制度や製品炭素表示認証制度を確立する。政府としてはグリーン公共調達を強化するとともに、企業に対してもグリーン調達ガイドラインを策定するよう指導する。同時に、消費バウチャーやグリーンポイントの発行を通じ、消費者がグリーン製品を購入するよう誘導する地域を支援していく。グリーンエネルギー消費の拡大も促す。
イノベーションでは、国主導での開発体制を強化するため、国家重点科学研究インフラの適切な配置、国家重点実験室と国家イノベーションプラットフォームの一体創設、国家重点最先端科学技術プロジェクトの一括実施を進める。特に、エネルギーのグリーン・低炭素移行、重工業の低炭素・脱炭素プロセス構築、新電力システム、CCUS、資源の節約・集約・リサイクル、新汚染物質管理等を重点分野に設定した。加えて、イノベーション主体としての企業の地位を強化し、主要企業が率先して重点コア技術研究コンソーシアムを設立することを支援。中小企業のグリーン・低炭素技術の研究開発にも資金供給を増やす。
財政・税制政策では、税制優遇措置と環境保護課税の双方を柱に据えた。同時に、銀行に対してはグリーンローンの発展を支援。さらに、グリーンエクイティ、グリーンリース、グリーントラスト、グリーンREIT等の金融手段も積極的に開発させていく。グリーン保険や、差別化された保険料率メカニズムの確立にも言及した。これらを通じ、官民でグリーン・低炭素分野への投資比率を高める。電気料金や水道料金、ごみ回収料金の価格メカニズムも改革し、環境保全に誘導する価格体系へのシフトさせる。グリーン電力証書、環境証書、カーボンクレジット等の市場型メカニズムの政策相乗効果も強化する。水素エネルギーに関してもライフサイクルでの排出量算定基準を確立するとともに、省エネ基準の製品適用範囲も拡大する。
国際協力では、国際的な環境規制強化の議論に積極的に参加しつつ、関係国との間で「グリーンシルクロード」建設を推進。海外プロジェクトを積極的に手掛け、グリーン・低炭素製品の輸出入も奨励していく。
政府ガバナンスでは、上記政策の遂行では、中国共産党中央委員会の所管とし、中央集権的かつ統一的な指導を行う。実務は、国家発展改革委員会が責任組織となり、重要事項は中国共産党中央委員会と国務院に報告する。各政府機関に対しては、今回発布した意見を十分理解し、政策を実行するよう伝えた。また、カーボンピーク・カーボン・ニュートラル特別法の制定に向けた研究も進める。違反に関する行政法及び刑法上の罰則も強化していく考え。
【参照ページ】中共中央 国务院关于加快经济社会发展全面绿色转型的意见
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