世界の産業界は水不足や化石燃料依存といったサステナビリティ課題を新たなビジネス機会に変える強い自信を持っており、特にその傾向は新興国市場の製造業、金融業界で強い。
これは、DNV GL、国連グローバルコンパクト、北欧最大のイノベーションシンクタンクMonday Morning Global Instituteが共同で1月20日に公表したレポート、”Global Opportunity Report”の中で明らかにされた傾向の一つだ。
同レポートは21か国、6,000名以上の公共・民間セクターのリーダーに対する調査を基に、8か国、200名以上の専門家らの知見を総合して作成されたもので、レポート内では公共セクター、民間セクターの関心や社会や産業界に与える潜在的なインパクトに基づき、今世界が直面している5つのサステナビリティリスクとそれに対応する15の機会を特定している。
世界のサステナビリティ課題やリスクをどのように機会として捉えることができるかを示すのが狙いで、国連グローバルコンパクトはこの取り組みを通じて世界中のステークホルダーがサステナビリティに関連する機会やソリューションを探すことができるオープンなイノベーションプラットフォームを提供するとしている。レポート内に記載されているリスク及び機会は下記の通り。
リスク1:異常気象
今後数十年の間に異常気象の発生頻度はより増える可能性があり、特に人口集中エリアにおける影響が危惧されている。異常気象リスクに対する機会は下記の通り。
- 機会1:早期警告・予測サービス
- 機会2:レジリエンス投資
- 機会3:コスト効率の高い適応策
高精度な気象予測サービスや異常気象に強いレジリエントな建築への投資などが、人々の命を守ると主に大きなビジネスチャンスにもつながると期待されている。
リスク2:水不足
水不足は健康や社会の安定を脅かすだけではなく、食糧やエネルギーへの危機にもつながる。水不足リスクに対する機会は下記の通り。
- 機会1:水効率の高い農業
- 機会2:淡水の製造
- 機会3:優れた水規制
水を多く使用する農業分野では、最新のテクノロジーにより水利用を抑えつつ収穫量を増やす新たな手法が期待されているほか、淡水化・浄水化技術の発展、水の節約と投資を促す優れた規制も大きな機会となる。
リスク3:持続不可能な都市化
現在世界では毎日20万人が都市へと流入しており、人口密集コスト、汚染、不衛生などが将来の大きな危機となる可能性がある。都市化リスクに対する機会は下記の通り。
- 機会1:コンパクトで環境に配慮された都市
- 機会2:地方部の成長を促すイニシアチブ
- 機会3:スマートシティ
都市をコンパクトかつグリーンにすることでインフラコストを削減するとともに都市の魅力を高めること、また雇用機会の増加など地方部の成長を促進することで人口分散を図ること、ビッグデータやリアルタイム分析など最新テクノロジーを活用して都市の利便性を高めることなどが機会として挙げられる。
リスク4:非感染性の疾患
循環器系の疾患、がん、肥満、慢性の肺疾患などは人々の生活だけではなく経済の成長を阻害する要因ともなる。非感染性の疾患リスクに対する機会は下記の通り。
- 機会1:モバイル技術の活用
- 機会2:健康を促進する新たな金融メカニズム
- 機会3:日々の健康志向
モバイル技術を活用した良質なヘルスケアサービス・システムへのアクセシビリティ向上、社会福祉政策の推進や子供を対象とした健康イニシアチブへの民間投資などを促す新たな金融メカニズムの創出、健康的な食品の選択や十分な運動など日常生活における健康志向などが新たな機会として挙げられる。
リスク5:化石燃料依存
化石燃料への過度な依存が、温室効果ガス削減の努力だけではなく、公共セクターや民間セクターによる代替エネルギー技術の導入も抑制する。化石燃料リスクに対する機会は下記の通り。
- 機会1:規制に基づくエネルギー移行
- 機会2:エネルギー自立
- 機会3:グリーン消費者行動
規制によるイニシアチブがよりクリーンで効率的なエネルギー生成を促すとともに、新たなイノベーションに向けたインセンティブともなる。また、オフグリッドやマイクログリッドを通じたエネルギー自立、より環境や気候変動に配慮した生活を望む消費者の増加などが新たな機会として挙げられる。
同レポートの公表を受けて、エグゼクティブ・ディレクターを務めるGeorg Kell氏は「世界の企業は気候変動などのリスクに尻込みすることはなく、それらの課題に関連する機会を捉えることのポジティブな利益をますます認識するようになってきている。このレポートは、民間セクターが新興経済の最先端で持続可能な発展に向けて決定的に重要な役割を担うというターニングポイントに来ていることを示している」と語る。
また、同レポートではサステナビリティリスクと機会に対する捉え方の傾向として下記5つを挙げている。
- 水のイノベーションを最大の機会として認識
- グリーンな消費者行動に対する期待
- 民間セクターは公共セクターよりも楽観的
- 製造業と金融業が最も自信を持っている
- 中国が最初、ヨーロッパが最後
水のイノベーションを最大の機会として認識
産業界のリーダーらは特に水不足への対応とグリーンな消費者行動に対して最も大きな機会を見出していることが分かったが、とりわけ水効率の高い農業に対する期待が高く、回答者の37%がこの機会は社会に大きな利益をもたらし、かつ自国にはその大きな余地があると考えていることが分かった。
DNV GLのCEOを務めるHenrik O. Madsen氏は「この調査が示す最も明確なシグナルの1つは、水不足の解決に対する自信だ。水不足は何百万もの人々に影響を与える非常に重大な問題であり、水のための争いが健康や成長、将来の繁栄にとっての大きな障害だと見なされている。今回の調査結果は、全ての人々が持続可能な形で水や衛生設備を利用できるようにするという国際的な目標に我々は到達することができるという楽観的な気持ちにさせてくれる」と語った。
グリーンな消費者行動に対する期待
また、化石燃料依存からの脱却に関わる機会についても前向きな見方が多く、もっとも期待されている機会としては、自宅における再生可能エネルギー利用の拡大、再生可能エネルギーを利用して作られた製品の積極的な選択など、より環境に配慮した消費行動への変化が挙げられている。
民間セクターは公共セクターよりも楽観的
さらに、公共セクターは主に規制面からの貢献が期待されているものの、サステナビリティ課題を機会と捉えて社会にポジティブなインパクトを生み出すことや、それを実現する能力については民間セクターよりも悲観的であることも分かった。
この結果に対し、Monday Morning Global Instituteの創設者、Erik Rasmussen氏は「この調査結果は我々を励ますと同時に不安にもさせている。持続可能なビジネス機会の追求への強い関心は民間セクターで非常に強い。しかし、公共セクターは同様には考えてはいないようで、これは残念なことだ。政府はサステナビリティと事業の両方を支援する法規制の策定により重要な役割を演じることができる。産業界と政府はビジョンとイニシアチブを共有し、対応しなければならない」と語っている。
一方で、同レポートはこの傾向が徐々に変わり始めている兆しについても触れている。レポートによれば、アジア、サブサハラアフリカ、南アフリカ地域の新興国における30歳以下の産業界のリーダーらは、規制によるエネルギー移行、や水規制などを最も大きな機会だと捉えていることが分かったという。
製造業と金融業が最も自信を持っている
新興国経済においてはサステナビリティ課題に紐づく市場機会の追求に積極的で、特に製造業、中でも中国は、課題を解決し、利益を生み出すことに対して強い自信を持っていることが分かった。
中国が最初、ヨーロッパが最後
地域別に見ると、中国は将来の見通しについて最も楽観的で、48%がサステナビリティを機会とすることに強い自信を見せている。また、中国に次いでインド(44%)、南アメリカ(37%)となっており、一方でヨーロッパは悲観的な傾向が強く、自信があると回答した割合は23%しかなかった。
今回のレポートからも分かる通り、現在世界が直面している様々なサステナビリティ課題は危機であると同時に、市場において新たな価値を生み出す大きな機会でもある。こうした機会に対して、中国やインドなど新興市場が特に積極的な姿勢を見せていることは心強い。また、業界別に見ると、一次資源と密接に関わる事業を展開している製造業と、世界の資産の投資先を決める上で重要な役割を果たしている金融業という、2つの多大な影響力を持つ業界が特に自信を持っていることも良い兆しだと言える。
それぞれのリスクや機会、国ごとの傾向などについて更に詳しく知りたい方はぜひ下記のレポートを見て頂きたい。
【レポートダウンロード】Global Opportunity Report
【団体サイト】Global Opportunity Network
【団体サイト】UN Global Compact
【企業サイト】DNV GL
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