英環境シンクタンクNGOのEnergy Transitions Commission(ETC)は4月27日、2050年二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)の実現可能性と、今後10年間で求められるアクションを分析したレポート2本を公表。電力コスト低下により、再生可能エネルギーが変革の中核となる一方、エネルギー移行が困難なセクターでは、水素技術が補完になると分析した。
ETCには、バンク・オブ・アメリカ、HSBC、クレディ・スイス、ロイヤル・ダッチ・シェル、BP、オーステッド、タタ・グループ、ボルボ・グループ、イベルドローラ、アルセロール・ミタル、欧州復興開発銀行(EBRD)、中国国務院発展研究センター(DRC)、世界資源研究所(WRI)等、45団体が参画している。日本の参加はゼロ。ETCは、世界経済フォーラム(WEF)等と協働で「ミッション・ポッシブル・パートナーシップ」も運営している。
【参考】【国際】重工業2050年脱炭素化「ミッション・ポッシブル・パートナーシップ」発足。世界経済フォーラムの活動から発展(2021年1月28日)
同レポートでは、2050年カーボンニュートラルは達成可能と明言。2050年までに電力は、エネルギー需要の70%(現在は20%)を占め、再生可能エネルギーの拡大ペースは、2030年までに5倍に加速するという。特に風力発電と太陽光発電については、現在電源構成の10%を占めているが、2030年までに40%、2050年までには75%まで成長すると分析。拡大ペースも2030年までで7倍、2050年までに10倍まで成長すると推定。水力発電や原子力発電も同様に拡大するとした。
またETCは、各国が脱炭素に向けたエネルギー政策を明確化し、適切な電力市場を構築することが重要と強調。カーボンニュートラル実現に向けた投資の約80%は、再生可能エネルギーへの投資だとし、今後30年間、世界で80兆米ドル(約8,700兆円)が必要になると指摘した。
さらに同レポートでは、2050年までに水素消費量は、現在の5倍から7倍にまで拡大すると分析。再生可能エネルギーの拡大を受け、グリーン水素が最もコスト競争力がある手法となり、同年までに水素生成の85%はグリーン水素になるとした。またブルー水素についても、90%以上の二酸化炭素回収率、0.05%以下の漏洩率になり、脱炭素化に重要な役割を担うと語った。
一方、グリーン水素生成コストが、グレー水素よりも低くなったとしても、現在の見通しでは化石燃料よりも高コストになると指摘し、コスト削減技術開発も含め、2050年までに2.4兆米ドル(約262兆円)の水素関連投資が必要と伝えた。そのうち85%は、再生可能エネルギー分野への向ける必要がある他、カーボンプライシング等の各国での政策も不可欠になるという。
ETCは、先進国に対し、2030年までに電力での二酸化炭素排出量を、1kWh当たり30g以下に抑えることを推奨。発展途上国に対しては、2040年までの実現を推奨した。同目標の達成に向け、2020年代に行うべきアクションとしては、自主的削減目標(NDC)の明示や、再生可能エネルギー開発拡大へのインセンティブ創出、ブレンデッド・ファイナンスを含む発展途上国への投資促進、電力の脱炭素化に向けたインフラ構築の要請、計画と承認プロセスの整備、長期エネルギー貯蔵や柔軟な供給に向けた技術やビジネスモデルの開発等を挙げた。
グリーン水素供給の拡大に向けては、カーボンプライシングの導入や、低炭素技術の開発に向けたセクター別の政策展開、大規模電解槽の建設目標の設定、官民連携での技術開発、水素生成、貯蔵、輸送、最終消費の拡大に向けた産業連携、水素での二酸化炭素排出量や純度、安全性に関する規制や基準の整備等が必要だと指摘した。
【参照ページ】Clean Electrification and Hydrogen Can Deliver Net-Zero by 2050, Says Global Private-Sector Coalition
【レポート】Making Clean Electrification Possible: 30 Years to Electrify the Global Economy
【レポート】Making the Hydrogen Economy Possible: Accelerating Clean Hydrogen in an Electrified Economy
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