米オレゴン州立大学のウィリアム J.リップル教授らは11月5日、人類は「気候危機」に直面していることは明白で疑う余地がないと警告する論文を学術誌「BioScience」で発表。同論文に科学者11,258人が発表時点で賛同した。
同論文は、1979年の第一回世界気候会議より40年間、気候変動について議論されてきたにも関わらず、その多くは地球の表面温度に関するものに過ぎず、人間の活動や気温上昇に伴う危険性に関しては議論が不十分だと分析。二酸化炭素排出量は依然増加の一途を辿っているとした。
人間活動による深刻な気候危機の兆候としては、人口や家畜数、一人当たりの肉生産量、世界のGDP、化石燃料消費量、人間の輸送量、二酸化炭素排出量等の増加、森林被覆率の低下等がある。太陽光発電や風力発電による再生可能エネルギー消費量は、過去10年で373%増加したものの、2018年データによると、ガス、石炭、石油等の化石燃料消費量の方が依然28倍も大きい結果となった。
2018年現在、二酸化炭素排出量の約14.0%に炭素価格(カーボンプライシング)が設定されているが、二酸化炭素排出量1tの加重平均価格は約15.25米ドルに留まっており、より高い価格設定が必要だと指摘した。さらに、海洋の温度上昇、酸性化、生物多様性への影響も観測されており、アクションの緊急性が示された。
研究者らは気候変動による影響を軽減するため、6分野での重要なアクションを提起した。
エネルギー
迅速に大規模なエネルギー保全と省エネの実践し、化石燃料から人類と環境に安全な再生可能エネルギーへの転換が必要。先進国は、発展途上国のエネルギー転換を支援すべきだとした。また、化石燃料利用については、炭素回収・貯蔵(CCS)等の技術を慎重に研究し、埋蔵資源の発掘を停止すべきだと指摘。化石燃料への補助金の廃止や炭素価格の引き上げを提起した。
短寿命気候汚染物質
大気汚染物質の中で、メタン、黒色炭素(ブラックカーボン:BC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、対流圏オゾン等の「短寿命気候汚染物質」の迅速な削減が必要。二酸化炭素等の長寿命気候汚染物質に比べ、大気中での滞留時間が短く、気候変動への悪影響が大きい。同物質の排出量削減は、短期的な気温上昇トレンドを50%以上も留める効果が期待でき、何百万もの生命の保護や、収穫の増加に繋がる。
自然
植物プランクトン、サンゴ礁、森林、サバンナ、草原、湿地、泥炭地、土壌、マングローブ、海草等は、大気中の二酸化炭素の吸収に重要な役割を果たしているため、生態系の保護が必要。生物多様性の損失へ迅速な対応を行うことで、パリ協定で目標とされる2030年までの排出量削減の3分の1を達成することができる。
食品
短寿命気候汚染物質や二酸化炭素には、動物由来のたんぱく質から、植物由来の食品たんぱく質の食生活へ転換していくことが必要。植物由来のたんぱく質の割合を増やすことで、畜産用の牧草地が植物の栽培に向けた耕作地に転換されていく。また、食品廃棄物の大幅削減に向け、耕す土地を最小限に留める最小耕起等が極めて重要になる。
経済
生物圏の長期的な持続可能性を維持するため、GDP成長や豊かさの追及から、生態系の維持や幸福の追及への移行が必要。経済成長に起因する原料の過剰抽出や、生態系を脅かす過剰開発を削減すべきだとした。
人口
人口は1日20万人以上、年間約8,000万人増加しているが、社会的な整合性を取りながら、世界人口の安定化が必要。家族計画をすべての国民に適用し、出生率を低下させることで、人口増加や生物多様性の損失を軽減させるべきだとした。
【参照ページ】World Scientists’ Warning of a Climate Emergency
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