年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は10月2日、同機関として初となる「GPIFポートフォリオの気候変動リスク・機会分析」レポートを発行した。8月に発行した2019年度版の「ESG活動報告」の別冊という位置づけ。GPIFは、2019年にも米環境情報データ提供Trucostに委託した気候関連情報の開示支援結果という形で気候変動関連レポートの発行していたが、今年ついに正式な分析レポートとして発行した。
【参考】【日本】GPIF、Trucostに委託した気候関連分析結果の概要公表。3℃上昇ペースで2℃目標整合性なし(2019年8月23日)
【参考】【日本】GPIF、2019年版のESG活動報告を発行。ESG投資パフォーマンスやTCFD開示も(2020年8月20日)
今回のレポート作成では、MSCIグループのMSCIクライメート・リスク・センター(同社が2019年に買収した旧カーボン・デルタ)、FTSEグループのBeyond Ratings(2019年にFTSEが買収)、S&P GlobalグループのTrucostの3社に業務を委託。「カーボンフットプリント/カーボン・インテンシティの測定及び要因分析」「温室効果ガス排出についての企業の情報開示」「気候Value at Risk(CVaR)によるリスクと機会についてのシナリオ分析」「技術的機会が企業価値に与える影響について」「国債の気候変動関連分析」「ポートフォリオの温暖化ポテンシャル」の6つで複合的な分析を行った。
MSCIクライメート・リスク・センターが開発した手法「気候Value at Risk(CVaR)」の算出結果では、株式への影響は、3℃シナリオでマイナス5.98、2℃シナリオで2.09、1.5℃シナリオで18.42と、シナリオの改善状況に応じて資産価格にプラスの影響を与えることがわかった。背景には新たな技術機会により市場全体が大きくなるため。一方、債券では、3℃シナリオでマイナス1.14、2℃シナリオでマイナス3.88、1.5℃シナリオでマイナス7.21というように、デフォルト率が低下することで、債券リターンとしては減少することがわかった。
またCVaRでは、セクター別の分析も行った。国内株式で気候変動リスクが大きくマイナスに作用するのは、電気・通信、生活必需品、金融の3セクター。各々物理的リスクのマイナス影響を強く受ける。一方、エネルギー、素材、電力については、政策リスクと物理的リスクが大きくマイナスに作用するものの、特許状況から算出する「技術的機会」については日本企業は大きな追い風を受け、総合するとエネルギーと素材ではプラス、電力でもほぼゼロという測定結果となった。一方、海外株式では、エネルギー、素材、電力ともに大幅なマイナスとなった。
投資先の各セクターで今後気温が何度上昇するかを指数化して示した「温暖化ポテンシャル」については、株式では、国内株式が2.76℃で、外国株式の 2.97℃を下回っていた。また債券では、外国債券(2.76℃)が国内債券(2.88℃)を下回る結果となった。全体としては、いずれのアセットクラスにおいても2℃目標の達成には距離があることが明らかとなった。特に、温暖化ポテンシャルが高いセクターは、エネルギー、電力、素材、生活必需品の4つ。
GPIFが今回発表したレポートは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)ガイドラインを意識したものとなっているが、シナリオ分析に焦点を当てたものとなっており、ガバナンス、リスクマネジメント体制、マネジメント目標等についての内容は盛り込まれていない。
【参照ページ】「GPIFポートフォリオの気候変動リスク・機会分析」を刊行しました
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