世界経済フォーラム(WEF)は1月25日から27日、オンラインイベント「ダボス・アジェンダ」を開催。例年1月開催の年次総会「ダボス会議」が新型コロナウイルス・パンデミックの安全対策面の観点で1月のダボスでの開催を断念し、5月にシンガポールで開催されることとなり、代替イベントとしてミニイベントの「ダボス・アジェンダ」が催された形。気候変動、差別、食料、アフリカ経済発展等で数多くのイニシアチブが発足した。
人種正義
職場での人種主義撲滅とビジネスでの人種平等の分野では、新たなグローバル基準として新イニシアチブ「ビジネスでの人種正義提携」が発足した。人種正義(エクイティ)は、近年、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に統合される形で、「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)」と呼ばれるようになってきている。
同イニシアチブへの加盟条件は、人種・民族平等を取締役会のアジェンダとして位置づけること、組織内での人種・民族正義に向け最低1つのコミットメントを掲げること、反人種主義的な組織に向け長期戦略を確立することの3つ。特に、「日本人」を重視する風潮のある日本企業にとっては大きなチャレンジとなる内容となっている。
同イニシアチブは、WEFの内部委員会「New Economy and Society」から誕生。創設企業は、バンク・オブ・アメリカ、ドイツ銀行、スタンダードチャータード、ブラックロック、ブルームバーグ、A.P.モラー・マースク、HP、ネスレ、コカ・コーラ・カンパニー、ペプシコ、P&G、ユニリーバ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、シスコ・システムズ、アストラゼネカ、UPS、H&M、グーグル、マイクロソフト、フェイスブック、リンクトイン、Uber、ペイパル、セールスフォース・ドットコム、SAP、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)、インフォシス、Ingkaグループ(イケア)、マンパワー、電通インターナショナル(旧電通イージス・ネットワーク)等。日本企業はゼロ。
「New Economy and Society」委員会は、人種、ジェンダー、障害、性的指向等に関する偏見、差別、排除に立ち向かうため、DEIの観点からのデータ、基準、ガイダンス等を作成している。今回のイニシアチブもその一環。
AI(人工知能)
AIの分野では、AI技術導入のインクルージョン、透明性、信頼性を担保するための連合体「グローバルAIアクション・アライアンス(GAIA)」が発足した。IBMのアルビンド・クリシュナ会長兼CEOと、AI・データ慈善団体であるパトリック・J・マクガバーン財団のビリャス・ダール理事長が、ステアリングコミッティの共同議長を務め、国際機関、政府、企業、NGO、大学教授等を委員として招聘する。
同企業連合は、WEFの内部委員会「Shaping the Future of Technology Governance: Artificial Intelligence and Machine Learning」から誕生。幅広く企業からの加盟を募る。
WEFは、AIは2035年までに組織の生産性を40%向上し、経済価値を新たに14兆米ドル分創出するとみている。しかしAIは安全性や倫理面でのリスクを抱えており、WEFは175の企業やNGOとともに、先んじてAIに関する数多くの原則を策定してきた。しかし、原則が多数林立し、実効性に課題を抱えたため、今回の企業連合では、策定された諸原則の社会実装に主眼を置く。
デジタル・デバイド
デジタル・デバイド問題では、デジタル経済から取り残さられる人のない社会を実現するため、新たな連合体「重要デジタルインフラ・サービス・ネットワーク(エジソン・アライアンス)」を発足した。ベライゾンのハンス・ベストベリ会長兼CEOが同団体の会長を務め、ルワンダのICT・イノベーション相、マスターカード会長、アポロ・ホスピタル・グループの副会長、ビスタ・エクイティ・パートナーズ会長兼CEOが役員を務める。WEFが事務局を担う。
同連合体は、2021年は、医療、教育、金融サービスの3分野に注力し、政府や企業と協働して、デジタル経済のインクルージョンを高めるための在り方を検討していく。
アフリカ経済圏
アフリカ経済圏では、アフリカ連合(AU)で1月に始まった「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)」について、パンデミックが与えたサプライチェーンへの影響を分析したレポートを発表した。AfCFTAは、アフリカ全土の自由貿易体制として、アフリカ域内のサプライチェーンを強化し、植民地時代から続いている単純産品の先進国輸出というモノカルチャー経済構造からの脱却を図っている。
AfCFTAは、2018年3月に合意、2019年5月に発効。2020年7月から運用開始予定だったが、パンデミックで2021年1月の開始となっていた。開始時点でAU55加盟国・地域のうち54ヶ国・地域が署名し、33ヶ国がすでに批准済み。エリトリアだけが署名していない。
今回発表のレポートは、WEFの内部委員会「Regional Action Group for Africa」が、デロイトの協力を得て作成。運用開始当初からパンデミックで活動が停滞している貿易体制を再建するための5つの重要テーマとして、「迅速な復興のためのファイナンスモデル」「グローバル・サプライチェーン・リスクを緩和するための製造業の潜在性発揮」「経済統合と域内バリューチェーン構築の加速」「インフラと地域間接続の活性化」「デジタル・トランスフォーメーションとインクルーシブ・イノベーションのスケール拡大」を挙げ、詳細をレポートした。特に、パンデミックで発生している製品・サービス需要を活かし、域内での生産し供給することで、サプライチェーン構築の弾みをつけるべきとした。
食糧問題
世界で20億人が安全で栄養的な食品へのアクセスが確立しておらず、6.9億人が飢餓に苦しんでいる状況に関し、WEFとオランダ政府は、世界の食料システムを変革するための技術イノベーション推進で、マルチステークホルダー型イニシアチブ「食品イノベーション・ハブ」を発足。オランダ政府が活動資金を拠出し、グローバル調整事務局もオランダに置くこととなった。
同イニシアチブは、WEFの内部委員会「Shaping the Future of Global Public Goods」と「Shaping the Future of the Internet of Things and Urban Transformation」から誕生。すでに国連世界食糧計画(WFP)、ペプシコ、ユニリーバ、世界農場主機関(WFO)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団等が加盟した。
栄養の分野では、WEFは9月に開催される国連食糧システムサミットに向け、「食料アクション同盟(FAA)」を運営しており、今回発足の「食品イノベーション・ハブ」は、FAAを牽引するイニシアチブとして位置づけられた。すでに、加盟機関は、コロンビア、インド、欧州、ASEAN、アフリカ等でイノベーションを促進する活動を展開することが決まっており、各々財団等が資金を拠出する。活動では、世界の小規模農家5億人以上の農業慣行や、77億人の消費パターンのシフトも狙う。
医療
医療問題では、新型コロナウイルス・パンデミックにより肺がん検査・治療が低迷していると分析したレポートを発表。政府に対し、パンデミック後の世界を見据えて、肺がん検査・治療に早急に関心を向けるよう要求した。これにより肺がん死者を減らせるという。
同レポートは、世界肺癌学会(IASLC)、ガーダントヘルス、世界肺癌連合(GLCC)、アストラゼネカの4者が2019年7月に発足したLung Ambition Alliance(LAA)と、世界経済フォーラムが作成。肺がんでは毎年100万人が死亡しており、がんの中で死者数が最大。それにもかかわらず、現在、40%以上の国で、肺がん検査・治療が十分に展開されていなくなっている模様。
環境
ナイジェリア政府は、WEFが運営するプラスチック問題対策イニシアチブ「Global Plastic Action Partnership(GPAP)」に加盟すると発表。これにより、GPAP加盟国は、インドネシア、ベトナム、ガーナ、ナイジェリアの4ヶ国となった。ナイジェリアも、他の3ヶ国と同様に、WEFと協働し、国別イニシアチブ「National Plastic Action Partnership(NPAP)」を発足し、国内でのステークホルダーとの連携を始める。
【参考】【ベトナム】世界経済フォーラム、ベトナム政府とNPAP締結。プラ削減で踏み込んだアクション(2021年1月11日)
【参考】【インドネシア】コカ・コーラ・アマティルとDynapack Asia、ペットボトルリサイクル工場建設発表(2020年6月3日)
WEFによると、ナイジェリアの2018年の海洋プラスチック発生量は20万t。同国でのプラスチック生産量は2022年までに52.3万tにまで拡大する見込みで、早急な廃棄物・リサイクル対策が必要となっている。
最も早くNPAPが立ち上がったインドネシアでは、すでにアクションプランとロードマップの策定が完了しており、プラスチック廃棄物処理年間1,600万t、雇用創出15万人、廃棄物処理からの年間売上100億米ドルを見込んでいる。ガーナとベトナムでも同様の計画作成が進んでおり、それにナイジェリアが続く形となる。
WEFは2017年に、アフリカ大陸でのサーキュラーエコノミー推進団体「アフリカ・サーキュラーエコノミー同盟(ACEA)」を発足し、アフリカ開発銀行(AfDB)、国連環境計画(UNEP)、南アフリカ、ルワンダとともに、ナイジェリアも加盟している。
その他
【ランキング】2021年 ダボス会議「Global 100 Index: 世界で最も持続可能な企業100社」
【国際】重工業2050年脱炭素化「ミッション・ポッシブル・パートナーシップ」発足。世界経済フォーラムの活動から発展
【国際】世界61社CEO、世界経済フォーラムのESG開示「ステークホルダー資本主義指標」賛同表明。日本7社
【国際】国際タスクフォースTSVCM、大規模な自発的炭素取引市場の創設を提言。マーク・カーニーが創設者
【参照ページ】World Economic Forum Launches Coalition to Tackle Racism in the Workplace
【参照ページ】World Economic Forum Launches New Global Initiative to Advance the Promise of Responsible Artificial Intelligence
【参照ページ】Tackling Digital Deserts: Launch of First Cross-Sector Alliance to Close the Digital Divide
【参照ページ】Study Finds Ways To Boost Intra-African Trade and Build Resilience
【参照ページ】Food Innovation Hubs Put Farmers at Head of the Table for Systems Change
【参照ページ】New Report Calculates COVID-19’s Cost on Lung Cancer Progress, Outlines Recommendations
【参照ページ】Nigeria Joins Forces with World Economic Forum to Fight Plastic Pollution
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