
持続可能な発展を目指すグローバル企業団体WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)の不平等(格差)に対処するためのイニシアチブ「不平等に対処するためのビジネス委員会(BCTI)」は4月8日、「生活所得(リビング・インカム)」の概念をサステナビリティ戦略に組み込むためのステップを概説したガイドを発行した。
【参考】【国際】WBCSD、B4IGとEquity Action Imperativeを統合、新イニシアチブ設立。格差是正(2024年1月14日)
生活所得とは、生活賃金と同様に適正な生活水準を達成するための概念。生活賃金は個々の労働者に焦点を当てているが、生活所得は世帯全体が適正な生活水準を確保するための概念を指す。生活所得の確保は、国連グローバル・コンパクト(UNGC)が、国連持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、企業に9つの具体的ゴールを掲げた2023年開始のイニシアチブ「Forward Faster」でも達成分野の一つとして掲げられている。
【参考】【国際】国連グローバル・コンパクト、「Forward Faster」開始。9つの具体目標。企業賛同受付開始(2023年7月27日)
特に、貧困層の約3分の2が農業従事者であるため、農業サプライチェーンにおいて同概念が重要となる。生活所得を適正水準まで引き上げることは最終ゴールではなく、生活者がより良い生活を行うための最初の一歩であり、サプライチェーン上の農家を支援する企業の責任を理解する上で有用な枠組みだとした。
生活所得の概念を組み込んだ戦略を展開することは、3つの重要なリスク軽減に役立つとした。1つ目は、人権リスク。生活収入を適正水準にすることで、農家は子供達の労働時間を増やすことなく家族を養うことが可能となり、子供が教育を受けることで世代を超えた貧困の連鎖を断ち切ることが可能だとした。
2つ目は、ブランド毀損リスク。企業は透明性と農家に対する公正な姿勢を消費者とサプライチェーンにおけるパートナーからより求めている。生活収入の向上を実現することで、新規顧客の獲得、農家のロイヤリティの向上、採用、自社製品のブランド力向上につながる。
3つ目に、サプライチェーン上のリスク。気候変動や森林伐採等により、多くの農家に悪影響を与えている。農家が生計を立てられるようにすることで、農場への投資が可能となり、中長期的に安定した商品供給力や気候変動への適応力等を高めることが可能となる。
生活所得を戦略に組み込むための5つのステップ「マテリアリティの特定」「パートナーシップ」「データ分析と学習」「戦略と実行」「測定と評価」を提案。WBCSD内のイニシアチブ「農業&食品パスウェイ」への参加を呼びかけた。
生活所得や生活賃金に関する国際的な議論は急ピッチで進んでいる。国際労働機関(ILO)理事会は2024年3月、2月のILO賃金政策専門家会合で合意された生活賃金に関する合意を支持する決議を採択。同専門家会合の中でも、生活賃金の定義として3つの要素が定められており、その中の1つに労働者とその家族がまともな生活水準を確保するために必要な賃金水準とされており、生活所得の概念が盛り込まれている。
【参考】【国際】ILO理事会、生活賃金設定に関する考え方承認。議論が大きく前進(2024年3月24日)
【参照ページ】Living Income: what, why and how
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