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【国際】米国EV補助金制度、日韓欧から反発。韓国は3年間の猶予。EUは定期協議開催

 日本政府は10月5日、米バイデン政権がインフレ抑制法に基づき準備している電気自動車(EV)補助金制度に関し、日本製EVに関しても税制優遇の対象にするよう求める意見書を提出した。各紙が一斉に報じた。

 同法では、EV補助金に関して、サプライチェーンの安全保障上の観点から米国、カナダ、メキシコの北米3ヶ国で最終組立が行われたEV車両に限定。さらに、補助金支給額では、コバルトやリチウム等の重要鉱物のうち調達価格の40%が米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶ国で抽出あるいは処理されるか、北米でリサイクルされていることや、EVバッテリーも北米で生産されている場合に優遇される制度にもなっている。背景には、実質的には、国内の雇用創出で有権者へのアピールをする狙いがあるとみられる。これに対し、先に、EU、韓国が懸念を表明。今回日本も両国に同調する形となった。

【参考】【アメリカ】上院、インフレ抑制法案を可決。再エネ・EV促進で50兆円。自社株買い課税も(2022年8月8日)

 米エネルギー省のホームページには、同制度整備の一環として、北米生産車種の一覧が掲載されている。原案のまま制度が確立すれば、ホームページに掲載されている車種が、補助金支給の対象となる模様。同ページには、テスラ、フォード、GM、クライスラー、BMW、アウディ、メルセデス・ベンツ等の対象車種が並んでいる。日本メーカーに関しては、北米で生産している日産自動車「LEAF」のみが掲載されている状況。

 これに対し、EU欧州委員会は、インフレ抑制法成立前の法案協議の段階から米国製造車種のみに限定するという方向性が示されていたことに反発。9月には、EU報道官が、WTOへの提訴を含めあらゆる選択肢を検討する必要があるとも述べている。

 また韓国政府も、バイデン大統領が5月に訪韓したタイミングで、尹錫烈大統領から直接懸念を表明。バイデン大統領は、その場ではリップサービスで韓国からの声に応えるような素振りを見せたが、実際にはインフレ抑制法は北米生産車両に限定することが決まり、韓国側を失望させていた。特に韓国では、車両だけでなく、バッテリーの国内増産体制を整備しており、影響が大きい。9月には韓国の高官が相次いで訪米しロビー活動を展開。最終的に、ハリス副大統領が、安倍晋三元首相の国葬で訪日した際に、韓悳洙・韓国首相とも会談。今後密に協議することを約束していた。

 こうした背景から、米財務省は10月5日、インフレ抑制法の一連の制度に関するパブリックコメントの募集を開始。各国政府も含めた幅広い関係者からの声をきく方式を正式に開始した。EU加盟国からも反発の声が強まっている。

 日本政府では、西村康稔経済産業相が9月7日、インド太平洋経済枠組み(IPEF)閣僚会合でロサンゼルスを訪問した際に、レモンド商務長官と会談し、懸念を表明。一方、10月26日に、内閣府税制調査会で、自動車の走行距離に応じた「走行距離税」を検討すべきとの声が上がり、こちらも自動車業界にとっての懸案事項となっていた。そのため、日本経済団体連合会(経団連)6月に新設し9月に第1回会合を開催した「モビリティ委員会」は、岸田文雄首相との懇談会を首相官邸で開催。その場で、モビリティ委員会の豊田章男委員長は、モビリティのカーボンニュートラルではEVに限定しない姿勢をあらためて政府に求めている。また同時にその場では、自動車税や米国のEV補助金についても話が出たと考えられる。

 日本政府は今回のパブリックコメントへの意見書では、「有志国との連携の下で、強靭(きょうじん)なサプライチェーンを目指す全体戦略と整合していない」との論理展開を行った。対中国での安全保障で、民主主義国の連帯を唱えながら、EVサプライチェーンでは北米のみを優遇する姿勢に矛盾があると指摘する作戦に出た。また、同制度では、日系メーカーの投資意欲が削がれ、同盟国である日本でEV開発・生産が進まないという論点も提示。加えて、「バイデン政権が掲げる野心的な気候目標達成の妨げとなるおそれがある」とし、米国の気候変動目標そのものへの足枷になるという点も突いた。

 他方、韓国政府は、日本政府とは違う要請を米国政府に出している。11月4日、韓国外務省は、韓国メーカーが米国内での生産投資を計画している場合、EV補助金の対象とする3年間の猶予案を米国政府に提案していることを明らかにした。すでに、現代自動車は10月末、米国で55.4億米ドルを投資し、EVとEVバッテリー工場の建設に着手。2025年前半に商業生産開始予定で、生産規模は年産30万台としている。韓国政府は、韓国生産でのEV補助金対象にこだわらず、時間猶予での対応を狙っている。日本勢でも同様に、本田技研工業は米国での生産投資に踏み切っている。また11月4日には、日韓議員連盟から自民党の額賀元財相等が訪韓し、韓国の尹錫悦大統領と約30分間会談し、岸田首相からのメッセージも伝えているが、EV補助金について議論があったかは明らかになっていない。

【参考】【国際】ホンダ、ソニーとの合弁EVの先行受注を2025年に開始。米国では生産能力を大規模拡張(2022年10月14日)

 早くから懸念を伝えていたEUとの間では、米国家安全保障会議と欧州委員会がEV補助金を巡るタスクフォースを創設することで合意し、第1回会合が11月4日に開催された。今後毎週開催するという。

 米国では11月8日に中間選挙が行われる。バイデン政権は、中間選挙が終わるまでは内政を重視しアクションはとらないと考えられる。また今後の結果は、中間選挙の次第で変わってくる。

【参照ページ】Treasury Releases Initial Information on Electric Vehicle Tax Credit Under Newly Enacted Inflation Reduction Act
【参照ページ】Treasury Seeks Public Input on Implementing the Inflation Reduction Act’s Clean Energy Tax Incentives
【参照ページ】Electric Vehicles with Final Assembly in North America
【参照ページ】第20回 税制調査会(2022年10月26日)資料一覧
【参照ページ】モビリティ委員会発足
【参照ページ】モビリティに関する懇談会

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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