インクルーシブ・ビジネスとは?
インクルーシブ・ビジネスは、2005年にWBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための経済人会議)によって唱えられた概念で、ビジネスのバリューチェーンの中に地域社会で暮らす人々(主に貧困層)を消費者、顧客、取引先、起業家などとして巻き込み(インクルードし)ながら、事業の発展だけではなく雇用の創造や所得水準の上昇などを通じてコミュニティ全体の発展を図るビジネスの手法のことを指します。主に発展途上国におけるBOP(Base of the Pyramid)層を対象としたビジネスにおいて用いられます。
UNDP(国連開発計画)のWebサイトではインクルーシブ・ビジネスを下記のように定義しています。
開発途上国の貧困層の人々を消費者、生産者、被雇用者、起業家などとしてビジネスのバリューチェーンに取り込み(=インクルーシブ/包括的)、現地で雇用や商品・サービスを生み出すことによって、貧困層の人々の選択肢の拡大と企業の事業機会の拡大を同時に実現するビジネス
インクルーシブ・ビジネスは発展途上国における持続可能なビジネスモデルの形態として近年注目を浴びており、大企業らが現地コミュニティの中小企業やNPOらと連携しながらコミュニティの発展と事業開発の実現を同時に目指す事例が増えてきています。
インクルーシブ・ビジネスにおいては、地域社会の貧困層の人々は様々な形でビジネスのバリューチェーンに参画し、恩恵を受けることができます。インクルージョンの代表的なパターンとしては主に下記の4パターンが挙げられます。
例えば、従業員やサプライヤーとして参画することで新たな収入機会や金融機関へのアクセスを得ることもあれば(就労支援トレーニングなども含まれる)、低価格に設定された商品・サービスを通じて消費者として直接の恩恵を得ることもあります。また、女性の自立支援を目的とした起業家支援プログラムを展開することでスキル及び資金の双方を提供し、ビジネスが発展するうえで重要となる流通インフラの整備などを実施するケースなどもあります。
インクルーシブ・ビジネスのモデルが上手く機能し出すと、貧困層の人々は新たな機会やスキルを基にして収入を増やすことができ、結果として更なる投資や教育などを通じて貧困の罠から抜け出すことができるようになります。
インクルーシブ・ビジネスの課題
上記のようにビジネスを通じて地域社会に様々な恩恵をもたらすことができるインクルーシブ・ビジネスですが、成功のためにはいくつかの課題も存在しています。代表的な課題としては下記が挙げられます。
- 投資対効果に対する組織内部からの批判
- ビジネスインフラなどの外的要因
- 地域社会からの信用
投資対効果に対する組織内部からの批判
インクルーシブ・ビジネスはコミュニティへの投資と共にビジネスが発展していくビジネスモデルなので、収益性の観点では長期的な視点で評価をする必要があります。そのため、事業開発にあたっては財務、ソーシャルインパクトの双方に置いて予め長期的な視点を織り込んだ上でKPIや目標の設定を実施しないと、事業としての投資対効果について組織内部からの批判が出る可能性もあります。一方で、インクルーシブ・ビジネスにおいてはバリューチェーン全体において地域社会と深く関わり合っていくことが求められますので、短期間での撤退などはかえって逆効果となる可能性もあり、事業の開発にあたっては慎重な計画の策定が求められます。
ビジネスインフラなどの外的要因
インクルーシブ・ビジネスが主な対象としている発展途上国の貧困エリアにおいては、ビジネスを発展させる上で最低限必要となる道路や交通手段、下水道や住宅といったインフラすら整っていないことも多く、本来は行政が提供するべきインフラが存在していないことが事業上の大きな課題になるケースがあります。
地域社会からの信用
インクルーシブ・ビジネスを成功させる上で鍵を握るのは、いかに地域社会の住民や地元の中小企業、NPO・NGOらと発展的な信頼関係を構築することができるかという点です。地域社会の中には利益至上主義の多国籍企業に対して不信感を持っている人々がいるケースも多いので、そうした人々と関わり合い、共に協力関係を築いていくためにはやはり時間がかかります。また、本当に信頼できるNPOや地元企業と連携できるか、という点も非常に重要となります。
インクルーシブ・ビジネスに関わる国際的な団体
インクルーシブ・ビジネスを推進している代表的な団体としては、国連が2008年に開始したイニシアチブ、BCtA(Business Call to Action)が挙げられます。BCtAは、国連の掲げるミレニアム開発目標の実現に向けてグローバル企業らによるインクルーシブ・ビジネスモデルの開発を支援しており、現在では100を超える企業がこのイニシアチブに参画しています。
また、UNDPはGIM(The Growing Inclusive Markets)というマルチステークホルダーによる調査研究・アドボカシーを主としたイニシアチブを展開しており、40ヶ国、110以上に及ぶインクルーシブ・ビジネスの事例研究をまとめたCase Studies Bank、世界のあらゆる地域で展開されている1,100以上のインクルーシブ・ビジネスモデルをまとめたデータベースなどを提供しています。
参考サイト・文献
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