
投資運用世界大手米ブラックロックは7月10日、気候変動に関する新たなスチュワードシップ・ガイドラインを発表。気候変動をテーマとしたエンゲージメントや議決権行使の方針をあらためて掲げた。
同社は以前から気候変動に関するスチュワードシップを重視してきた一方、近年は米国内の反ESG政治運動の標的にされ、苦しい立場に置かれていた。ブラックロックは、米国の共和党州の年金基金等から投資引揚げ(ダイベストメント)を受ける一方、世界の機関投資家の多くが、今後3年間で気候変動移行戦略への配分を増やす予定と認識しており、今年1月の「フィンク・レター」の中でも、エネルギー移行(トランジション)を「メガフォース」と表現している。
【参考】【国際】CA100+、石油・ガス大手10社へのエンゲージメント強化。米運用大手から脱退相次ぐ。反ESG政治運動に苦慮(2024年2月22日)
【参考】【国際】ブラックロック、2023年エンゲージメント優先事項発表。2022年内容を踏襲(2023年3月25日)
【参考】【国際】ブラックロック、2023年のフィンク・レター発表。「ESG」封印もESG投資鮮明に(2023年3月16日)
今回発表したガイドラインでは、4つのアクションを柱とした。
- 企業との双方向対話を通じ、企業の実践への理解を深め、議決権行使の判断材料とする。
- ブラックロックに議決権行使を委任しているクライアントに代わり、株主総会で経営陣からの提出議案及び株主提案に関する議決権を行使する。
- スチュワードシップに関する業界対話に貢献し、顧客の投資に影響を与える可能性のある事項に関する当社の見解を共有する。
- クライアントに私たちのスチュワードシップの努力を伝えるため、さまざまな出版物や直接の報告を通じ、私たちの活動を報告する。
同社は2月、同社にカーボンニュートラルを投資目的とした運用を明確に指示されたクライアントに向け、新たに脱炭素スチュワードシップ・オプションを開始 すると表明。今回のガイドラインは、具体的なスチュワードシップの進め方を規定したものとなっている。また、同社はスチュワードシップ方針全体を規定した「ベンチマーク方針」も定めており、今回の「気候・脱炭素スチュワードシップ・ガイドライン」は同方針に紐づくサブ方針という位置づけとなっている。
同ガイドラインでは、脱炭素スチュワード・オプションを選択するファンドやクライアントに対して、財務的な考慮に加え、エンゲージメントや議決権行使で1.5℃目標と整合させることを明確にした。当該オプションを選択しないファンドやクライアントには、顧客の長期的な経済的利益を促進することのみに焦点を当て、既存のベンチマーク方針に沿ったスチュワードシップ責任を引き続き遂行する。
同ガイドラインでは、エンゲージメント対象に関しては、低炭素経済への移行に不可欠なセクターや企業を優先。またグローバル統一ではなく、セクターや市場毎の状況の差異も考慮する。長期的かつ現実的なアプローチをとり、企業と主要なステークホルダーの混乱を最小限に抑える移行を優先する。企業への開示要請では、投資家の見解に資する有用な開示に焦点を充てる。
議決権行使では、まず情報開示テーマに関しては、1.5℃整合性のある戦略の開示、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の「IFRS S1」及び「IFRS S2」に基づく開示を求めるものには賛成票を投ずる考え。温室効果ガス排出量については、スコープ1、2、3の算定・開示と、スコープ1と2の削減目標設定も求める。但し、スコープ3の削減目標に関しては、メソドロジーに課題があることから、必須とはしない。この点は、米証券取引委員会(SEC)が最終発表した気候関連情報開示ルールに準じたと言える。
【参考】【アメリカ】SEC、気候関連情報開示ルール最終決定。スコープ3撤回、小型株企業はCO2開示免除(2024年3月8日)
【参考】【アメリカ】SEC、気候関連情報開示ルール執行を一時停止。賛否双方からの訴訟相次ぎ(2024年4月8日)
次に取締役の選任や取締役会のガバナンスに関する議決権行使では、取締役会が気候変動に関するリスクと機会及び長期戦略の明確な監督責任を負っているとの立場を明確にした。事業ラインとイノベーションに対する資本管理戦略(投資戦略)を明確にすることも求める。企業のリスクマネジメント・プロセスに、気候変動リスクを統合させることも求める。業界団体への加盟やロビー活動への監督責任も求める。これらが遵守されていないと判断されば場合には、当該案件に責任を持つ1人以上の取締役の選任に反対票を投ずる可能性があることも明言した。反対票の候補となるのは、取締役会議長を務める社外取締役、筆頭社外取締役、気候変動やサステナビリティの監督責任を負う委員会の委員長や他の委員。市場によっては、監査委員会委員が対象となる場合もある。
気候変動戦略に関する株主の諮問敵決議(Say on Climate)に関しては、同ガイドラインに基づく評価で、当該戦略が低炭素移行に沿ったものと判断された場合には賛成する。
株主提案に関しては、1.5℃整合性のある事業計画の策定と開示に関する議案、スコープ1と2での2050年カーボンニュートラル達成に関する議論、事業関連性の高いスコープ3の開示、気候関連ロビー活動と自社方針との整合性に関する開示に関するものを例示し、賛成するとした。
役員報酬に関しても、温室効果ガス排出量削減目標や低炭素移行関連指標を含めるよう求める場合もあると言及。監査報告書に関しても、財務諸表の中で重要な気候変動リスクを考慮し、必要であれば定量化し、会計処理しているかどうかをチェックする可能性があるとした。
今回のガイドラインは、気候変動に関するエンゲージメントや議決権行使に対し、かなり積極的な姿勢を示している。米国の反ESG政治運動への対応では、「ブラックロック自身ではなく、アセットオーナーの意向に従っているだけ」という理屈を掲げ、乗り切る考え。
【参照ページ】BlackRock Investment Stewardship
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