Sustainable Japan QUICK ESG研究所

予防原則・予防的な取組方法・予防的措置 2017/02/19 辞書

予防原則とは

 予防原則(Precautionary Principle)とは、環境保全や化学物質の安全性などに関し、環境や人への影響及び被害の因果関係を科学的に証明されていない場合においても、予防のための政策的決定を行う考え方です。「予防的な取組方法「(Precautionary Approach)」「予防的措置(Precautionary Measures)」とも言います。

 予防原則は、1982年に国連総会で採択された「世界自然憲章」で初めて国際的に認知され、1992年に「国連環境開発会議(地球サミット)」で採択された「環境と開発に関するリオ宣言」に、第15原則「環境を保護するため、予防的方策は、各国により、その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない。」の中で正式に用いられたことで、世界的に普及していきました。

 その後に提携つされた環境分野の国際条約では、予防原則の考え方が導入されていき、国際的な貿易ルールの役割を果たしている世界貿易機関(WTO)でも予防原則が採用されています。1999年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で当時のアナン国連事務総長が提唱した国連グローバル・コンパクト(UNGC)にも、原則7「企業は、環境上の課題に対する予防原則的アプローチを支持すべきである」として組み込まれています。

背景

 予防原則自体は、1960年の西ドイツの環境政策において「Vorsorg(予防)」の概念が、そして1974年の大気汚染法の中で「Vorsorgeprinzip(予防原則)」の概念が導入されたのがはじまりです。その後スウェーデン政府が、1969年及び1973年に化学物質政策の中で「化学物質の安全性が説明できないものは安全ではない」という旨の予防的判断が用いられました。

 予防原則に関する用語としては、1984年第1回北海会議で「Precautionary Approach(予防的な取組方法)」を用い、1985年の「オゾン層の保護のためのウィーン条約」や1987年の「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」において「Precautionary Measures(予防的措置)」という言葉が使用されました。また、1990年第3回北海会議では「Precautionary Principle(予防原則)」が用いられました。

 その後、「環境と開発に関するリオ宣言」第15原則では、「環境を保護するため、予防的方策(Precautionary Approach)は、各国により、その能力に応じて広く適用されなけれ ばならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない」という表現が用いられました。

 予防原則、予防的な取組方法、予防的措置の中では、予防原則が一般に最も普及している用語だが、「原則」という言葉が強い意味を持ちやすいため、「疑わしいものは全て禁止させるべきだ」という含意を想定しやすく、日本や米国の行政当局はこの用語の使用を避ける傾向があります。そのため、日本や米国では、予防的な取組方法という言葉を用いています。一方、ヨーロッパ諸国の政府では予防原則を用いています。

予防原則の必要性

 予防原則が必要な理由は、事後対応より事前防止の方が、コストがかからないからです。健康や環境への被害が発生した場合には、回復に多くの費用を要し、場合によっては完全な回復に至らないこともあります。そのため、原因と被害の科学的立証がなされていない状況でも、深刻なあるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、事後対応より費用対効果の大きい事前防止を行うべきであるというのが基本的な考え方です。

 しかし、予防原則を極端に拡大適用していくと、科学的証明がなされていないものに対しても制裁や罰則、コスト負担を強いることにつながり、「疑わしきは罰せず」という社会の基本的な原則に反することにもなりかねません。そのため、予防原則をどのように適用すべきかについては、政策関係者、司法当局の間でも様々な立場が存在しています。

国内外の運用の違い

 予防原則について、定義や使用されている用語は異なるものの、考え方そのものについては大方な合意がとれています。しかし、細部については、国際機関や各国政府で解釈が異なります。

 主要国でも対応は分かれており、日本、米国、EUの中では、EUが予防原則に積極的でより幅広く採用する傾向があり、日本と米国は科学的根拠がないものに制限をかけることに比較的慎重的だと言うことができます。米国の立場については、米国行政管理予算局(OMB)のグラハム長官が、2002年1月に行った講演「リスク評価とリスク管理における予防の役割-米国の考え方」での表現がよく参照されています。一方EUについては、2000年に欧州委員会が予防原則に関する考え方を総括して発表した文書「予防原則に関するEUコミュニケーション」が参照されています。

 予防原則については、大学やNGOからも大きな関心を集めており、NGOや大学が開催した国際会議でまとめられた「予防原則に関するウイングスプレッド宣言」がよく参照されています。このウイングスプレッド宣言では、「ある行為が人間の健康や環境に対する脅威であるときには、その因果関係が科学的に完全に解明されていなくとも、予防的方策をとらなければならない。予防原則では、立証責任は、市民ではなく、その行為を推進しようとする者が負うべきである。」と記し、健康や環境のためには積極的に予防原則を適用すべきであると主張しています。

適用例

 予防原則を適用した例として、2002年から2010年のEUにおける環境政策の方向性と実行措置を定めた第6次環境行動計画(2002年)が挙げられます。他にも特定有害物質の電気・電子機器に関する法の標準化を目的としたRoHS指令(2003年)や、人の健康及び環境の保護とEU域内市場の自由な流通を目的としたREACH規則(2006年)などが挙げられます。

 また日本でも、2000年に第二次環境基本計画で「予防的な取組方法」の考え方が導入されて以降、同計画では継続して考慮されています。さらに2001年には、日本科学工業協会が「予防原則Q&A」をまとめ、予防原則の制度化を目的としたNGO「化学物質と予防原則の会」が2002年に創設されるなど、産業界や市民社会おいても関心を集めています。

現在の課題と今後

 予防的アプローチ・予防原則は、欧州では広く採用され、EU各国の国内法に影響を及ぼしています。一方で米国、特に連邦政府は未だ慎重な姿勢を示しており、確実な客観的科学的根拠をもとに環境法などの規制がなされます。その例として、シェールガス、シェールオイル、地熱発電などで利用される水圧破砕が飲料水資源に与える悪影響に関し、NGO等は重大な悪影響の可能性があるとしてすぐに規制をすることを求めていますが、米環境保護庁(EPA)はまず科学的な調査を行う必要があるとしています。EPAはもちろん予防原則の重要性を認めていますが、手続きとしてはまず科学的調査にもとづき、立証可能の可否等を見極めたリスク評価を行った後に、事前対応策を考えるべきだとしているためです。

【参考】EPA、水圧破砕が飲料水資源に与える影響をまとめた包括的報告書を発表(2016年12月24日)

 日本でも、風力発電の低周波音被害問題、地熱発電での温泉地影響や自然破壊問題等で同様の議論があります。予防原則を広く採用し、事前の予防策を講じれば講じるほど、そのためのコストが必要となるためです。

【参考】風力発電と低周波音問題 〜現状と対策〜(2014年7月3日)

参考文献

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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