トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)は、腐敗・汚職の防止のために調査や啓発を行う国際NGOです。1993年に世界銀行の元アフリカ担当局長ピーター・アイゲン氏が設立。本部はドイツのベルリンにあり、100カ国以上に支部(チャプター)があります。
背景
TIは、設立者のピーター・アイゲン氏が世界銀行の職員としてアフリカ援助を行った際、多くが賄賂に使われた経験が背景にあります。1990年代、多くの企業が賄賂をビジネス上のコストとみなして納税申告することがよくありました。さらに、多くの国際組織が、世界中の開発プロジェクトに投じられる多額の資金を健全に使用していない状況を放置していました。汚職を廃止し、世界規模で汚職の現状を把握する組織が無かったのです。
そこで、本組織の設立者であるピーター・アイゲンと他9人で、賄賂と汚職の防止に取り組む組織を発足。腐敗防止やガバナンス、公益通報保護への関心も集まり、TIは世界的な成長を遂げてきました。
活動
TIの活動は主に、(1)現地での問題解決、(2)調査と出版物の公開です。活動領域は、医療、内部通報、政治・政府、森林、防衛・安全、石油・ガス、スポーツ、教育、貧困・開発など多岐に渡ります。上述のようにTIは、支部として世界中に100カ国以上のチャプターがあります。そこでは、各国で異なる現地の腐敗と汚職に関する問題に対し、無償の法整備支援や政府への助言など幅広く取り組んでいます。日本には、トランスペアレンシー・ジャパン(TI-J)というチャプターがあります。
(1)現地での問題解決
上述のように活動領域は、世界中で多岐に渡ります。以下、医療と政治・政府の例を紹介します。
a. 医療
現在、賄賂が生死を分けてしまうという状況の国があります。というのも、そのような国の医療従事者は患者に対し私的にチャージを要求し、患者の診察の順番を早めるのです。しかし、そのチャージは公的ではなく、本来は取られるべきものではありません。さらに世界銀行の調査によると、ボランティアの医療基金の80%以上が現地の医療機関を調査していないことが判明。
この状況を解決するには、まず政府による詳細な医療予算と財政情報の公表が必要です。そうすることで、TIが資金の追跡や不正使用の防止をすることができます。また、医療従事者に十分な賃金を払う仕組みも必要。そこで、本組織は医療の専門家や管理者に対する説明責任の要求、診療所や病院の予算の精査、さらには政府に対するコンサルティングを通じて改善に取り組んでいます。
b. 政治・政府
政治・政府の領域では、選挙における不正操作があります。候補者が政党に対して多額の寄付金を送ることや、政党や候補者が他の候補者が勝たないよう投票権を購入することもあります。またそれだけではなく、政治家は資金援助を受けた人々に利益となる政治判断を下し、公の意見は二の次となることもあります。つまり、政治における汚職は、貧困層や障がい者から貴重な資源を遠ざける可能性があるのです。このような状況は、特に民主主義の機能が弱い国で起こっており、このような政治に対する人々の不信感が政治への参加を妨げ、結果的に汚職への監督機能が失われ続けるのです。
これらの問題を解決するには、TIでは、政治家や公的機関に対して活動への説明責任を求めることが必要だとしています。信頼に値するか判断するための材料としての説明があることで、投票においてもより情報に基づいた選択が可能。草の根活動のような規模から規模の大きい組織まで、それぞれが市民社会では重要な役割を担っています。選挙運動や政党の活動を監視し、国の予算が不正に使用された場合は報告するなど、自ら声を上げるよう促進しています。
(2)調査と出版物の公開
同組織による調査で有名なものは、腐敗認識指数(Corruption Perception Index)です。各国の公的部門と民間部門の関係について、腐敗度を調査・評価しランキング付けしています。2016年度版では、完全にクリーンだと評価された国はありませんでした。評価は0がより腐敗しており、100がよりクリーンであるとしています。調査した176の国と地域のうち、3分の2以上が50を下回る結果。全体平均はわずか43でした。この調査結果は、事態の深刻さを表しています。日本のスコアは72で20位でした。
他にも、TIは以下のような出版物を公表しています。
「The Global Corruption Report」:同組織の最も重要な出版物として、特定の課題に関する汚職防止の専門的見地をまとめたもの
「The Bribe Payers Index」:先進国28カ国からの海外への賄賂の実態をランキング付けしたもの。1999年から調査を開始。
インパクト
TIが発表した『Impact Report』によると、同組織は次のような活動に取り組み、成果を上げています。
- 2014年のCorruption Perception Indexは175の国と地域を対象とした調査を実施。2014年においてコンプライアンス責任者の75%が当該インデックスを業務で使用。
- Global Corruption Barometerは、11万4千人と107の国と地域を対象に調査を行なった、世界最大の汚職に関する世論調査。
- 1997年にサプライサイドにおける賄賂に関する世界初の国際条約であるOECD賄賂禁止条約が締約され、41カ国が批准。2014年は米国のビジネスのみで、15億6千ドル相当の海外への賄賂による罰金が科されました。
- 国連グローバルコンパクトの10項目に汚職防止が掲げられたことで、世界中の8,000もの企業が汚職防止に貢献。
- 持続可能な開発目標(SDGs)の16項目にガバナンスの強化と汚職防止が組み込まれた。
- 公的資金に関し、パキスタンでは1億5千万ドル以上の助成金が汚職に消えることから守られました。ホンジュラスでは、1,700万ドルの医療サービスがTIの監視下でやりとりされました。
- 知る権利に関わる法律は、1993年は11カ国のみが制定。2015年には104カ国まで拡大。
参考ウェブサイト
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