スマートグリッドとは
スマートグリッドとは、リアルタイムで電力需要を把握し、ITを利用して供給側と需要側の双方から電力の流れを最適化するための送電網のことです。スマートグリッドという言葉は、スマート(賢い)とグリッド(送電網)を組み合わせたもので、日本語では次世代送電網と呼ばれます。
背景
スマートグリッドが注目され始めたのは、米国オバマ政権の時にグリーン・ニューディール政策の一つとして掲げられたときからです。米国では、東部で大停電が2003年に発生。2007年には、カリフォルニアの一件あたりの年間事故停電時間は127分。これらは、国土が広大であるために消費地が散在し、発電所からの送電が長距離であること、そして、高コスト及び送電ロスとなってしまうことが要因でした。また、送電部門への投資不足から老朽化が進んだことも原因としてあげられました。そこで、各地域で供給側と需要側が電力供給及び消費を調整し合うことができる電力供給システムを構築するため、スマートグリッドが検討され始めました。これがアメリカにおけるスマートグリッドの考え方です。
一方、日本においては米国と比較して国土が狭いため、電力の消費地は集まっています。そのため送電網は整備され、供給の安定性は世界でもトップクラス。しかし、CO2排出削減を実現するために、太陽光発電や風力発電を大量に導入することが国の課題です。それにあたり、スマートグリッドによって、天候や気候などの自然に左右される発電量を安定的にする必要があります。つまり、日本では停電対策ではなく再生可能エネルギー導入の一環としてスマートグリッドが推し進められています。
以上のように、米国と日本ではスマートグリッドの捉え方が異なるため、それぞれ「米国版スマートグリッド」と「日本版スマートグリッド」のように、分けられることがあります。
スマートグリッドの役割
日本におけるスマートグリッドは、「より効率的な送電」という役割が期待されています。
大規模蓄電池が開発されていない現在、発電した電力をリアルタイムで送電することが重要です。そこで、各家庭や工場に設置したスマートメーターと連携することで、消費側の情報を電力会社に30分に1回消費電力を送信。このような情報管理を行い、どこでどれだけの電力が不足しているかを遠隔地から把握し、適切な量を送電することができます。
このように無駄を排除した送電を可能にするスマートグリッドは、CEMS(Community Energy Management System)やFEMS(Factory Energy Management System)、HEMS(Home Energy Management System)などと連携させることで一層の効果が生まれます。
世界の動向
既に世界各国でスマートグリッドが注目されています。米国の市場調査会社、Northeast Group社が2014年10月に公表したレポート「Southeast Asia Smart Grid: Market Forecast」では、東南アジア諸国で2014年から2024年の間に、スマートグリッド・インフラへの136億ドルもの投資がなされると見込まれました。特に、タイやインドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ベトナムがスマートグリッド・インフラに関して最大の市場となると予想。経済成長を続ける東南アジアでは、産業発展だけでなく環境負荷低減の技術への投資先としても注目されています。また、2013年には中国が43億ドルを投資。それは、世界のスマートグリッドへの投資額の約3分の1に相当し、初めて米国の投資額を上回りました。
また、自動車メーカーもスマートグリッドに参入し始めています。それは、スマートグリッドにはエネルギー利用の最適化が実現できる低炭素型の交通システムが必須だからです。自動車業界は、例えば、次世代自動車に蓄電池を搭載し、住宅のエネルギー使用量と連携させて適宜放電する、といった構想を練っています。これは、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが安定的に蓄えられなくても、住宅やビルでの電気利用への影響を無くすことができます。このようにスマートグリッドに対して、自動車メーカーだけでなくバッテリーメーカーやエネルギー企業もバッテリーの製造などに参入。それに伴い事業提携やM&Aがグローバル規模で行われています。
日本の動向
日本では、経済産業省が低炭素社会に向けて、CEMSという地域型のエネルギーマネジメントシステムを推進。CEMSによって地域ごとに効率的にエネルギーをつくり利用することが可能なスマートコミュニティでは、スマートグリッドがその基盤となります。そこで同省が中心となって、有識者も混えた省内横断的プロジェクトチームとして「次世代エネルギー・社会システム協議会」が2009年11月に設置されました。同協議会により2010年4月に「次世代エネルギー・社会システム実証地域」として、横浜市、豊田市、京都府けいはんな学研都市及び北九州市の4つが選定され、ITを活用した省エネ実現のモデルや標準、そしてビジネル環境の構築に取り組んでいます。
今後の動向
スマートグリッドは、電力の供給側である電力会社と利用者である需要側を結ぶため、技術の標準化が不可欠です。世界に先駆けてスマートグリッドを導入してきた米国では、経済対策方により商務省傘下のNIST(National Institute of Standards and Technology)が標準化に取り組んでいます。
また、スマートグリッドを巡るサイバーセキュリティに関する研究も進められています。2009年には米国で送電網に何者かが侵入したとの報道がされたことを機に、送電網の安全強化を目的とする法案が上下院に提出されました。日本においても、日米スマートグリッド共同研究を通じてサイバーセキュリティの研究が行われています。
そして、スマートグリッドがインフラとして構築されるために欠かせないスマートメーターは、今後設置台数が増大することが見込まれています。このスマートメーターは、使用電力の見える化にも貢献するもので、一般家庭や企業にとっても効果的です。
参考文献
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