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【北米コラム】コンティンジェント・ワーカー 2015/06/05 ESGコラム

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 コンティンジェント・ワーカーという用語がある。直訳すれば、偶発労働者とでも言うのであろう。企業の従業員として役務の提供をするのではなく、コンサルタント、フリーランサー、自営業者もしくはパート・タイムとして役務提供を行う人を指す。米国の失業率は大不況だった2008年の8%水準から直近では5.5%まで回復している。米国の大企業に勤める上級管理職400人を対象に行ったアンケートによれば、企業に必要とされている技能を持つ人材が不足しており、これを1から2年以内に埋められないと懸念している割合は半分近く (46%)もいる[1]。

 この穴を埋めるために、企業はコンティンジェント・ワーカーを登用している。このような人材はすでに米国の労働人口の実に20%から33%を占めており、2020年には40%を超えると予想する声もある。これは季節労働者や単純労働に限った現象ではなく、いわゆるホワイト・カラーにも共通するものである。小売業、金融業、医療関係、プロフェッショナル・サービスや公共サービスの8割以上が、コンティンジェント・ワーカーを登用していると答えている[2]。

 インターネットが普及し、ネットワーク化の進んでいる今日、オフィスに出向かなくてもできる作業や仕事も多い。コンティンジェント・ワーカーには、バーチャル遠隔勤務をする人も多い。IT関係者や、カスタマー・サービス、事務作業、教育などが、在宅勤務の人気職業だという[3]。筆者は、サンフランシスコ郊外に住んでいるが、仕事の合間を縫ってプールに行くと、平日でも男女を問わず大人が大勢いる。その多くは自営業やコンティンジェント・ワーカーであることにようやく気が付いたのは5年ほど前だ。以来注意して観察すると、カフェや図書館、公園や車の中で仕事をしている人数の多いことに驚いた。

 労働社会が今後ますますコンティンジェント・ワーカーに移行することを考えると様々な変化が予想される。一昔前までは終身雇用が当たり前だった日本では想像しにくいが、米国では企業に健康保険や年金積み立ては義務づけられておらず、充実した福利厚生制度は優秀な人材を企業に惹きつける要素の一つである。今後コンティンジェント・ワーカーが増えれば、個々人が保険や年金積み立ての手配をしなければならない。一度就職すれば安泰ということはなくなり、常に技能を磨き、自分をアピールして売り込む必要が出てくる。皆が皆“Lean In”*する必要に駆られる可能性がある。 能力ある人材は収入に困らないかもしれないが、労働組合などの組織に頼った対企業交渉も難しくなる。仕事内容に対する評価が大切になるため、企業の肩書きの価値が相対的に低くなり、評価の尺度を新たに見出す必要も出てくるだろう。一方で、上司や同僚を気遣った長時間勤務の価値はなくなり、子育てや余暇を上手にやりくりすることもできるようになる。

 コンティンジェント・ワーカーの増加による環境への影響も大きい。会社に通勤せず、自宅または自宅付近で仕事をすることによる通勤時間や費用の節約に加え、二酸化炭素などの温室効果ガスの回避もできる。自家用車で週5日通勤のために30マイル往復すると年間およそ11,300ポンド(5,125キログラム)の炭素排出をするという[4]。一本の木が吸収できる二酸化炭素は48ポンド(22キログラム)というから、235本の木が一人の通勤を支えていることになる[5]。企業も、オフィス・スペース、電気、空調などの節約ができるため、温室効果ガス排出量を抑えることができる。もちろん、自宅で使用する電気、空調、コンピューターをネットワーク化するためのデータ処理施設などの温室効果ガス排出量は増えるため、一概に環境にとって良いことばかりではない。インターネット関連で排出される二酸化炭素は年間3億トンに上るという[6]。これだけの二酸化炭素を吸収するには1,363万本の木が必要になる。

* ”Lean in"は、字義どおりには「~の方向に傾ける」「寄りかかる」「体重をかける」という意味。「体重をかける」から転じて 「誰(何)かに圧力をかける」という意味にも使われ、最近では、職場でチャレンジやリスクに向き合うことを奨励するときに使われる。「割り込め」「前に出よ」というニュアンスに近い。

執筆:QUICK ESG研究所 Mari Kawawa

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