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【ステークホルダーダイアログ】エンゲージメント:投資家と企業の対話がもたらす変化 〜NTT(日本電信電話株式会社)〜 2016/05/25 ESGレポート

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 ※(2016/6/3追記)本記事の英語版を作成いたしました。英語版はこちら → English

 2014年スチュワードシップ・コード、2015年コーポレートガバナンス・コードが施行されて以降、アセットオーナーとアセットマネジャー、そして企業の意識や認識は変化している。2016年は、それが実際に様々な行動として現れるだろうと考えられる。しかし、日本の現状では、投資家側、企業側ともESGというキーワードで「対話」をする経験は乏しい。一体、何を言われるのだろう、あるいは本当にコンタクトがあるのだろうか、という企業側の懸念も大きいままだ。そのような中で、PRI (責任投資原則)署名機関から成る協働エンゲージメントを実際に受け、自社の情報開示の弱点を改善した成功事例としてNTTの事例が存在する。本事例はPRIの年次総会”PRI in Person 2015″(2015年9月ロンドンで開催)で披露され、日本企業として始めてNTTが登壇し注目を集めた。

 これまで海外の投資家からも、日本企業によりオープンな開示や、対話そのものへの対応を期待する向きがあったが、NTTという日本を代表する大手企業において、良い成功事例が成り立ったことは、今後の方向性を示すものではないだろうか。

 PRI in Personでの内容も含め、実際にロンドンで登壇された中塚健也総務部長兼CSR推進室長と、岡田善幸総務部門CSR推進室担当部長に、今回のエンゲージメントについて詳細を伺った。

 今回のエンゲージメントをまとめると次のような点が特徴的であった。

◆きっかけは、突然届いた海外の投資家からレター。

◆中長期の視点をたったTOPの判断により、CSR、IR、広報が一体となってプロジェクトが始動。

◆エンゲージメントは敵対的なものではなく、投資先と企業が、企業価値の向上に向けて一つのテーマに真剣の取り組む、とても建設的な内容であった。

◆エンゲージメントを通じ、情報開示のスコアが向上しただけでなく、社内、グループが情報開示に積極的になった。

NTTインタビュー写真

(写真)向かって左が岡田氏、右が中塚氏。

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(写真)PRI in Person 2015 中塚氏参加パネルの様子(左端パネリストが中塚氏)

質問

1.エンゲージメントの経緯

(Q)いつ、どこから、どのような形式で、エンゲージメントが始まったか教えてください。また、それに対し、御社内での受け止め方はどうでしたか?

(A)2013年11月に、Sparinvest社のDavid Orr氏(Senior Portfolio Manager:当時)より、副社長宛てにレターが届いた。「私は27の運用機関29人を代表している。腐敗防止に対する取組みを、もう少しオープンでクリアにディスクロージャーするべきである。改善に向けたダイアログ(対話)を開始したい。」という主旨の内容であった。

 レターに書かれている指摘内容をみると既に公開している内容もあったので、12月にOrr氏に、「ここを参照してください。」と回答した。

 翌年3月、主に経営全般の業績や取組みを海外の投資家に説明するために取締役が出張中、毎年訪問しているSparinvest社にも訪問し、Orr氏にこのダイアログを受けることを伝えた。同じく3月にOrr氏が来日し、中塚氏およびIR担当と直接ミーティングを持ち、具体的な取り組みがスタートした。中塚氏は、総務部長の肩書きもあり、コンプラインス担当として参加した。

 実は、このレターを受け取った時に、既に社内ではESGの情報開示を強化する動きは始まっていた。

 当時、財務情報の開示についてはそこそこ良い点数を取っていたが、非財務の開示のスコアが悪かった。レターを受け取る2ヶ月前、社長を含むボードメンバ―に、DJSIの自社評価が悪いことをコンサルティング会社の同席のもと説明した。

 その結果、社長が重要性を認識。必要だと感じた時にスタートとしても間に合わないので今から準備すべきだという意見が受け入れられ、CFOが責任者となり、中塚氏が中心となって取り組むことになった。その際良かったと考えることは、社長から、CSRだけでなく、IRと広報3人一緒にやれと言われたことだ。外部に対してしっかりやっていると公開するのであれば、社内できちんと対応していないと恥ずかしい、との考えに基づく。結果、その月のうちには、社内の各部門からなるプロジェクトがスタートした。

 11月に中塚氏と岡田氏の前任者が、このセクターで評価が高いKorean Telecom(KT)のCSR部門を訪問し、CSRの取組みを聞いて意見交換した。驚いたことは、彼らは10年くらいCSRの課題に取り組んでいるが、10年前スタートした時は、NTTを参考にしたと言われたことだ。また、韓国では、日本でいう経済産業省にあたる省庁がDJSIで高い点数を獲得するためにはどうすればいいかとか、そういったテーマで勉強会を開催している点も驚いた。

 このような社内の動きもあり、PRIが起点となった(Coordinated)Orr氏からの提案は社内でスムーズに受け入れられた。

2.具体的な内容と対応について

(Q)具体的な内容と対応について、可能な範囲で詳細に説明してください。

(A)プロジェクトでは、「GRIの対応表に沿って出せるものはすべて開示する」という基本方針のもと、全体の方針をたてスタートした。3年をターゲットに、対応内容と時期を以下の3つに分類した。

  • すぐに開示できる項目=次の開示から開示できる項目。(1年目)
  • グループ各社の協力が必要な項目(2年目)
  • システムを構築してデータを収集する必要がある項目(3年目)

 1年目の対応時には、既に社内にある情報を開示し、ホームページに掲載している項目を並べ替えたり、リンクを付けるなど、情報を見つけやすいように改善した。これは、今も継続している。その後も継続的に、メールやミーティングで意見交換し、社内のプロジェクトチームと連携をとり、今年6月にはOrr氏のアドバイス内容に沿ったコンプライアンスのホームページを公開した。日本語と英語の情報格差をなくしたこと、重要項目を1ページにコンパクトにまとめたことがポイントだ。

 開示情報についても整理した。CSRレポート、アニュアルレポート、会社案内をそれぞれ発行し、その都度社内で確認をとっていたが、各情報の目的を整理し、会社案内はホームページがあるので廃止、CSRレポートとアニュアルレポートは統合、サスティナビリティーレポートは評価機関向けとした。

 さらに、DJSIに限定せずに各種アンケートにも積極的に回答することにした。

3.この活動の成果

(Q)成果をどのようにみていますか?定量、定性面から教えてください。

(A)PRIのTransparency Internationalのレポート(TRACレポート)腐敗防止のベンチマーキングでスコアが18%から80%に改善した。今回、投資家とダイアログを実施した33社の中で最も改善した例と聞いている。また、昨年よりDJSIのアジア・パシフィック・インデックスに選定された。

 定性的には社内で情報開示に対する意識がすごく高まったといえる。CSR担当者で、NTTデータやNTTドコモなどのグループ企業内で会議を実施しても、各社ともに情報開示に積極的になっていると感じる。

4.苦労の多かったポイント

(Q)苦労の多かったポイントとその対処方法、今回のダイアログの感想を教えてください。

(A)冒頭お話した経緯もあり、社内は抵抗感なく受け入れられた。苦労した点は、グループ横断的に対応したので、例えば国別のデータなど取得できないデータが多くあることだ。NTTグループはここ4、5年で海外企業を買収し、海外売上は1兆円、連結ベースでは24万人中7万人が海外従業員になっている。買収先の会社や従業員の情報は集めにくく、テーマごとにバウンダリーを決めて対応しているが、まだ課題がある。

 また、ダイアログを開始した当初は、PRI、TRACレポートが何なのか、自分たちがどのタイミングでどう評価されているかも知らず、理解するのに苦労した。これらの点について、Sparinvest社のDavid Orr氏は、何でも教えてくれた。また、英語のニュアンスとしてどのような表現が良いかについても細かく教えてくれ、非常に有意義なダイアログだった。

 今回のダイアログでは、投資家と企業が組むことによるメリットを感じた。単なるESG評価ではなく、投資家にとっては投資先の企業価値の向上、企業にとっては自社の企業価値の向上、双方が同じ目的に対し、お互い協力し対応することができる、良い仕組みであると考えている。

 財務面でのダイアログは何十と対応しているが、今回のように特定のテーマを設定することにより、具体的なアクションまで踏み込むことができるのも良かった。

5.今後の方向性や課題

(Q)今後の課題について教えてください。

(A)海外子会社の情報収集、ガバナンスは課題だ。オレンジ(フランステレコム)の役員とこの問題について話す機会があったが、「システムで収集しないと無理。」と言われた。

 また、ホームページは、まだまだ分かりにくい部分が多く改善したいと考えている。PRI in Personで投資家と話をしたが、投資家達はベンチマーキングを見て、スコアの低い項目について対話したがっていることが分かった。DSJIはアンケート形式だが、多くの評価機関が公開情報だけで評価しているので、今後は主要なベンチマーキングを意識したホームページに変えていこうと考えている。DJ以外の評価機関とのコミュニケーションを強化したい。

6.基本情報

◇企業プロファイル

 日本電信電話株式会社(NTT)は、1985年に日本電信電話公社から民営化され、1999年より現在の持株会社によるグループ経営体制へ移行した。

 地域通信事業、長距離・国際通信事業、移動通信事業、データ通信事業を中心に事業を拡大。また、本格的な海外事業の展開に向け、Dimension Dataの買収をはじめとするグローバル・クラウドサービスにおけるM&Aやグループ連携を推進している。

 連結営業収益11兆5,410億円(2016年3月期)、連結子会社数は国内外合わせて900社以上。

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取材日:2015年11月2日

QUICK ESG研究所 (聞き手:広瀬悦哉、松川恵美、中塚一徳)

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