Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【ステークホルダーダイアログ】海外責任投資リーダーの実践:企業とのエンゲージメント~(1)Hermes~ 2016/08/09 ESGレポート

Hermes

 長期的な観点から責任投資を実行するアセットオーナーにとって、エンゲージメントは大変重要な株主行動の1つである。また、スチュワードシップ・コードを実践する上でも、建設的な「目的を持った対話(エンゲージメント)」が行われていくことが必要とされている。 しかし、日本では、これまでの環境の中で、エンゲージメントの経験が豊富な投資家は決して多くないのが実情だ。
 そこで、このたびエンゲージメントの取り組みについて日本が進むべき方向性を見出すために、Hermes Investment Management(ハーミーズ・インベストメント・マネジメント) のColin Melvin (コリン・メルビン)氏にお話を伺った。同氏は、エンゲージメントを扱う専門会社であるHermes Equity Ownership Services (以下、Hermes EOS)で、長く世界のエンゲージメントを牽引してきた後、2016年2月より親会社であるHermes Investment Managementにてスチュワードシップに関するグローバル・ヘッドを務めている。

◇Colin Melvin 氏
 Hermes Investment Managementのスチュワードシップに関するグローバル・ヘッド。 2004年から 2016年1月まで、Hermes EOSのCEO、現在は会長。コーポレート・ガバナンス、サステナビリティ、責任投資の最前線で20年以上の経験を持ち、企業の優れたマネジメントと運営のエキスパート。ファンドマネージャーの資格を持ち、CFA協会のメンバー。
ベイリー・ギフォードの責任投資ヘッドを務め、2002年よりHermes。ソーシャル・ストック・エクスチェンジ(Social Stock Exchange)会長、プリンシーズ・トラスト(チャールズ皇太子が発案した英国の恵まれない若者を支援する信託でボランティアにより活動が行われる)のボランティア、国連責任投資原則(PRI)ボード・メンバー、30%クラブ・インベスター・グループ(英国の上場企業の取締役会の少なくとも30%を女性のメンバーとすることで企業また株主にとって企業価値を高める活動でメンバーは企業の会長・社長)のメンバー及び専門諮問グループメンバー。
 歴史を学び、アバディーン大学学士並びにケンブリッジ大学 MPhil(博士課程)。スターリング大学より投資分析の学位、インスティチュート・オブ・ディレクターズのカンパニー・ディレクターシップを取得。また公認ディレクターの資格を有する。

◇Hermes Investment Management / Hermes EOS
 Hermes Investment Managementは、英国最大級の資産規模を持つBT年金基金(BT:旧名ブリティッシュ・テレコム)が設立した運用会社で同年基金の主要運用機関であり、同年金基金以外からも多くの運用資金を受託している。また子会社であるHermes EOSは、企業年金など長期投資を行う投資家向けに企業とのエンゲージメント、議決権行使などのサービスを提供している。

ColinMelvin

(写真)Colin Melvin氏

質問

1. Hermes Investment Managementの新たな役割

(Q)Hermes Investment Managementの新たな役割をどう考えているか?

(A)Hermes Investment Managementのスチュワードシップ・グローバルヘッドとしての私の新たな役割は、スチュワードシップのコンセプトをこれまで以上に拡大していくことだ。
 これまでのスチュワードシップは、投資家のアセットが持続可能な将来と経済的利益に貢献することやインベストメント・チェーンでの相互関係に注視してきたが、エンゲージメントの専門チームであるHermes EOSは、現在提供しているスチュワードシップサービスで、「市場の失敗」にも対応している。「市場の失敗」には、アセットオーナーと企業間を取り持つ役割のアセットマネージャが、企業と良い対話をできていなかったり、あるいは全くやっていないことなどがある。年金基金、ファンドマネージャともに、適切なエンゲージメントを実施するには十分なリソースを持っておらず、また的確な動機付けもされていない。ファンドマネージャは、次の四半期に何が起こり企業の利益がどうなるかを予想しようと試み、それに基づいて売買の意思決定をすることが仕事だ。彼らのパフォーマンスはベンチマークと対比され、投資パフォーマンスの評価も短期的なものとなっている。

 こうした状況を考えても、ファンドマネージャにスチュワードシップを的確に実施する十分なリソースを割り当てることは難しいと考えている。なぜなら、スチュワードシップの実践が彼らの業務やビジネスモデルと結びついていないからだ。また、特定の企業グループ(フィナンシャル・グループなど)を担当するファンドマネージャは、利益相反の問題も抱えている。具体的にはビジネス関係のある企業とのエンゲージメントを求められる場合となるが、対処が難しい。こうした点が、企業の真の所有者や年金基金から見た、「市場の失敗」と言える。
現状では、アセットオーナーのためのエンゲージメントやスチュワードシップが適切に実施されているとは言い難い。Hermesの役割は、この「市場の失敗」を是正することにある。Hermes Investment Managementでの私の役割と課題は次の点にある。
「投資業界(investment industry)が、適切にスチュワードシップやESGを実施するように現状を改善できるか?また、我々が変化を起こすことができるか?」

 問題は投資が短期的なことや、他の要素(ESGのような長期的な課題)を考慮していないことにある。ESGの課題は短期的ではなく、長期的なものだ。カーボンリスク、気候変動、その他の環境関連リスク、またソーシャルリスク、たとえば、労働問題、贈収賄などだが、それらの多くが長期的課題である。Hermesが、長期的視点を考慮するように投資業界の業務のあり方を変えていくことが望ましいと考えている。短期的な取引ではなく長期的な関係性に焦点をあてることで、ファンドマネージャと顧客との関係に変化が現れる。スチュワードシップのコンセプトを広げる点は、ファンドマネージャと年金基金との関係にも及ぶ。長期的な関係を築くことは、新しい契約形態、より長期のパーマンス評価期間、ベンチマーク、その他の条件、パフォーマンスについて再考することにも結びつく。また、スチュワードシップへの関心が高まり、リソースを投入し、ESGインテグレーションにも強い関心を持つことにつながる。

 次に、エンゲージメントを専門としているHermes EOSが、これまで取り組んできたことについてお話ししたい。

 ファンドマネージャ(そのほとんどが年金基金)とのエンゲージメント、ファンドマネージャとの関係については、より良い契約、より良いパフォーマンス測定方法、より良い共同利益とインセンティブの構築などに、建設的に取り組んできた。ここでのキーコンセプトは、すでに申し上げたように、短期取引からインベストメント・チェーンにおける長期的な関係に焦点を移すことにある。もう一つは、顧客との関係が“interdependent”(相互依存的)であると認識することにある。顧客と建設的な関係を築き、協働して、よりサスティナブルな将来を構築できる機会があると理解することで、顧客と“interdependent”(相互依存的)で、顧客と共に、よりサスティナブルな将来を構築する機会をもつことができる。関係者が協力的、建設的に活動することで、すべての者にとって、より良い結果をもたらそうとする考え方である。“interdependent”(相互依存的)とは、“symbiosis”(生物学用語:共生、相利共生、共益関係)と言ってもよい。この考え方は日本の文化や社会と親和性があると理解している。こうした観点からスチュワードシップやESGインテグレーションに取り組むことが、日本でのさらなる普及につながると考えている。“interdependent”(相互依存的)であることは、日本や他のマーケットにとって、大変重要なメッセージである。

2. 長期的、かつ“interdependent”(相互依存的)な関係の構築

(Q)現状での問題を解決するために、これらの考え方は有効だと思う。しかし、依然として、このような考え方を理解できない、あるいは、どのように長期的な関係を構築するのか理解できない人もいると思われるが、どのように考えるか?

(A)それは日本だけの問題ではなく、グローバルな問題だ。例えば英国でも、短期契約、短期的視点での投資行動が見られる。我々は、この問題に対して、建設的な対話を通して、契約の変更、長期視点でのパフォーマンス測定などが取り入れられるように働きかけていく。これが、私の新しい役割である。

 

(Q)問題を解決するためのキーポイントは何か?

(A)第一に、教育・啓蒙と理解だと考えている。世界的には、いくつかの大手機関投資家がサスティナビリティーやスチュワードシップについて理解し始めているが、変化をもたらす言葉を持っておらず、変化を起こす手立ても持っていない。

 Hermesのやりたいことは、投資業界の中で、リーダシップを発揮することだ。長期資金を適切に管理するためのHermesの新しいフレームワークを使って、他のファンドマネージャやクライアントとディベート、ディスカッションすることにより、対話をリードしていく。

 また、契約についてコンサルティングすることも、理解促進の源泉になると考えている。業界をリードする機関投資家と顧客を交えたミーティングを設定して、年金基金や機関投資家と、より適切な合意に達するよう共同で作業する。また、我々の取り組みを支援する新たな規則や規制環境が整備されるように、また状況によっては規制を緩くするよう、規制当局や政策立案者との対話を進めていく。

 年金基金と機関投資家の契約を長期的視点に立つものにすることも必要だ。現状では、時には、パフォーマンスが上がらず翌月でクビになる可能性もある。契約が1年、2年、3年と続くことで、資金も長期的に管理されるようになり、長期的利益を得られるようになる。“illiquidity”(長期的に継続する状況)においては、ファンドマネージャはESGにフォーカスして、スチュワードシップに関心を持ちながら、投資することができる。

 契約の中に“illiquidity”(長期的に継続する)という考え方を組み込むことを提唱したい。基金の責任が20-30年単位で問われる一方で、3か月単位での顧問契約更新のような短期的な視点があることはバカげている。

3. Hermes EOSのエンゲージメントについて

◆エンゲージメントのコスト

(Q)誰が、エンゲージメントのコストを負担するのか?

(A)Hermes EOSの現在のクライアントは43、うち39が年金基金である。Hermes EOSではエンゲージメントに28名の専門家が従事しており、エンゲージメントのコストは、長期投資を志向する上記の43ユーザでシェアされ、コスト削減につながっている。年金基金は互いに競合する関係ではなく、協力関係を構築できる立場にあり、協働することでリソースとコストをシェアし、その品質を高めていくことができる。これが我々のモデルだ。

 エンゲージメントのコストはアセットオーナーとアセットマネージャの両者が負担すべきものと考えている。現状では、そのよう状況になってはいないが、長期的なタイムフレームで考えれば、当然のことながらアセットマネージャもエンゲージメントに取り組む必要があると考えている。

◆エンゲージメントのプロセス

(Q)エンゲージメントの中で取り上げるべき項目をどのように決めるのか?

(A)顧客が関心を持っている社会、環境、ガバナンス、及び戦略的な課題を考慮した上で、Hermes EOSのスクリーニングプロセスにより決定される。

 

(Q)エンゲージメントの対象となる企業をどのように選択するのか?エンゲージメントの詳細手順の例を示してもらいたい。

(A)企業から建設的な応答を得ることに成功している理由のひとつは、エンゲージメントの対象とする企業を選択する際の考え方にある。我々の顧客がポートフォリオで保有する企業からスクリーニングする際には、広範囲に渡るリサーチとデータを駆使する。評価ポイントとしては次の点を考慮している。

①顧客のコーポレートガバナンス方針や責任投資方針に企業が大きく反しているか
②企業が戦略的、ガバナンス、環境、社会などに関連したリスク、またそれ以外にも重大なリスクにさらされているか
③我々の顧客の保有規模と、対象企業を保有する顧客数。

 このようなスクリーニングプロセスを経て、企業へのエンゲージメントに関する経験に基づき、該当企業にポジティブな影響を与えうる可能性についてフィージビリティー評価を行う。この評価には、該当企業や取締役会メンバーとの関係を構築しているか、顧客の所有規模、同様の考え方をもつ投資家が存在するか、などの本質的な検討が含まれる。通常、成功の見込みがない企業とのエンゲージメントは行わない。エンゲージメントの核心は、長期的な価値創造に向けて継続的かつ建設的で双方向の対話を促進するために、企業との強固な協力関係を構築することにある。

 具体的な事例としては、エクソンモービルがある。気候変動に関する取り組みの進捗について学ぶために、詳細をご覧いただきたい。

 

(Q)プロセスやエンゲージメントの効果をどのようにチェックするか?

(A)企業とのエンゲージメントを引き受けることを決定した場合には、対話を開始する前に、目標、マイルストン、タイムフレームを設定して、その企業に関して何を達成しようとするのか、目的を正式に決定する。取り組み度合いと重要度に基づき、エンゲージメントを3階層に分けている。

  • 最も高いグループ(Tier1)・・・平均して年間5回から7回のエンゲージメントを行う。
  • 中位グループ(Tier2)・・・平均して年間3回から4回のエンゲージメントを行う。
  • 低位グループ(Tier3)・・・平均して年間1回から2回のエンゲージメントを実施する。

 個別のエンゲージメントに関しては、Hermes EOSがエンゲージメントの目的に合わせてアクションプランを作成する。これは、我々が何を達成したいかを要約したものであり、以下の“SMART methodology”を遵守したものでなければならない。

  • 具体性: 何を達成しようとするのか、どのように達成するのか明確に表現できなければならない。
  • 測定可能性:マイルストンにより進捗状況を明確に把握し、いつ完了するのか認識しなければならない。
  • 実現可能性:現実的なタイムフレームで、達成可能な目標を設定しなければならない。
  • 妥当性:目標が、顧客の投資にとって意義のあるものでなければならない。
  • 時間的制約:いつまでに、目標を達成するのか認識しなければならない。

 エンゲージメントの進捗を把握するマイルストンは、以下の構成となっている。

  • Milestone 1・・・適切なレベルでの問題提起
  • Milestone 2・・・その問題に対応しなければならないことを企業が受け入れることの確認
  • Milestone 3・・・その問題に対応するための企業による計画の策定
  • Milestone 4・・・その計画の的確な実施

 適切なエンゲージメントの手順に従った、最高レベルでのエンゲージメントが求められる。エンゲージメントの進捗をモニターするために、Hermes EOSでは、EOSiプラットフォーム上でエンゲージメントの記録を月次ベースで更新していく。また、四半期ベースでは、詳細な活動実績、企業からの応答、目標へ向けての進捗についてエンゲージメントレポートを作成する。エンゲージメントの目標に対する進捗が予定通りでない時は、考えられる原因を四半期レポートで報告し、エンゲージメントの目標修正の見通しを提供する場合もある。加えて、エンゲージメントの品質を確保し、常に我々自身に挑戦するために、しっかりとした品質監視プロセスがある。

このプロセスには、以下の項目が含まれる。

  • 個別エンゲージメント診断、セクター、テーマ、国についてのレビューミーティングを3人の取締役が運営し、新しいエンゲージメント、提案された新しい目標、階層(Tire)の変更、注視すべき他の企業についてレビューする。
  • セクターチームは、セクター全体でのアプローチと、個別企業のエンゲージメントについて検討するプラットフォームを提供する。
  • 週次ミーティングでは、最近取り組んだエンゲージメントと今後のエンゲージメントについてチームで議論し、問題を指摘し合う。
  • 年次では、独立第三者機関による品質監査を実施している。

4. ESG投資に関して日本に期待すること

(Q)ESG投資に関して、日本に期待することは何か?

(A)日本は、責任投資とスチュワードシップでリーダーになれると考えている。責任投資、スチュワードシップ、そして的確なコーポレートガバナンスが日本経済の改善・成長に寄与するという明確な宣言にみられるように、政府の支援と推進が日本市場のポジティブな特長だ。

 しかし、この取組みが日本で成功するためには、やはり投資における構造的な短期主義(short-termism)に対処することが必要だろう。他市場と同様に、短期的取引の考え方から、長期投資家として、クライアントニーズを優先し、投資家と投資先企業の関係性を重視し改善していく考え方へと、日本も焦点を移していく必要がある。そのためには、長期契約や適切に設計されたパフォーマンス測定、動機付けを通じて、より良い利害関係を築くことが求められる。

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取材日:2016年3月2日

執筆:QUICK ESG研究所

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