Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【政府・レギュレーションの動向】「日本版クラス・アクション(消費者集団訴訟)」開始、本法に向けた企業の課題 2016/10/04 ESGコラム

class-action

 いわゆる「日本版クラス・アクション」(消費者集団訴訟)を盛り込んだ「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続きの特例に関する法律 略称:消費者裁判手続き特例法」(以下、「本法律」という。)が、2016年10月1日に施行された。

 「本法律」において、消費者契約に関して相当多数(50人以上とも言われている)の消費者に生じた財産的被害を集団的に回復するための被害回復裁判手続き(いわゆる「日本版クラス・アクション」)が創設された。

1.「本法律」制定の経緯

 消費者被害に関しては、同種の被害が発生しながら、消費者と企業との情報の質および量ならびに交渉力の格差等により、個々の消費者が自ら訴えを提起して被害の回復を図ることは困難であり、消費者被害の回復のための新たな制度を創設する必要性が従来から指摘されていた。

 諸外国の動向を見ると、1966年アメリカ連邦民事訴訟規則改正により「損害賠償クラス・アクション」が明確化された。その後、2000年代に入り、欧米諸国で様々な訴訟制度が創設された。ただし、アメリカが「オプト・アウト」型であるのに対して、欧州主要国は、基本的に「オプト・イン」型の法律構成を取っている。

 これら内外の動きを受けて、2008年12月に内閣府に「集団的消費者被害回復制度等に関する研究会」が設けられ、検討が開始された。その後、「消費者庁」が2009年9月1日に内閣府の外局として設置され、同年11月に「集団的消費者被害救済制度研究会」が開催され、以後検討が進められた結果、2013年4月に「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続きの特例に関する法律案」が閣議決定され、同年12月4日に成立し、同月11日に公布されたものである。

2.「消費者集団訴訟制度」の概要

(1)目的 (「本法律」第1条)

 「この法律は、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害について、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差により消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることに鑑み、その財産的被害を集団的に回復するため、特定適格消費者団体が被害回復裁判手続を追行することができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」

(2)原告適格:特定適格消費者団体 (「本法律」第2条第10号)

 訴訟の原告は、「特定適格消費者団体」に限定される。被害回復裁判手続を追行するのに必要な適格性を有する法人である適格消費者団体(消費者契約法第二条第四項に規定する適格消費者団体をいう。現在、全国で14団体)のうち、新たに内閣総理大臣の認定を受けた者をいう。

 従って、個々の消費者、弁護士などによる提訴はできない等、不適切な訴訟提起を防止する措置を講じ、企業活動に不測の影響が生じないように制度設計している。

(3)対象となる請求 (「本法律」第3条第1項)

 「特定適格消費者団体」は、事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務であって、消費者契約に関する次に掲げる請求に係るものについて、共通義務確認の訴えを提起することができる。

 一 契約上の債務の履行の請求

 二 不当利得に係る請求

 三 契約上の債務の不履行による損害賠償の請求

 四 瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求

 五 不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の請求

(4)二段階型の訴訟制度の創設(共通義務確認の訴えならびに簡易確定手続きおよび異議後の訴訟) (「本法律」第2条ほか)

 一段階目:事業者の共通義務の確認 (金銭の支払義務を確認)

 二段階目:対象消費者の債権を個別に確定 (誰に、いくら支払うか)

 手続きの枠組み:オプト・イン型(参加型)

(5)経過措置 (「本法律」附則第2条)

 本法律の施行前に締結された消費者契約に関する請求については、「被害者回復裁判手続き」の適用対象とはならない。

3.「本法律」に向けた企業の課題

 経済界は、アメリカにおける経済活動に対して「クラス・アクション」によって痛手を被ったことからナーバスになっている。「本法律」は二段階型訴訟構造となっており、ひとたび、訴訟が起きると長期化することが予想され、企業の経済活動に大きな負担が生じ、ひいては企業の存続すら危ぶまれることも想定される。

 過去においては、2009年から2010年にかけて起きた自動車メーカーの大規模リコールに伴い、アメリカ等において集団訴訟が起きている。

 また、フォルクスワーゲンAGによる排気ガス規制不正行為に関する情報開示違反により損害を被った年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、保有する株式に生じた損害賠償請求について2016年3月14日同社を被告とするドイツ法に基づく集団訴訟手続きに参加している。

(ドイツ法は、一段階型のオプトアウト方式による訴訟制度が設けられている。また、ドイツ法は対象事案が限定されていないため、GPIFが消費者契約に基づかない損害賠償についても集団訴訟ができるのである。)

 日本でも、最近「自動車の燃費データの不正」、「自動車のエアバッグ欠陥問題」および「マンション傾斜問題」など、消費者集団訴訟の対象となりうる事案が起きている。
 なお、「本法律」は、消費者契約に限定されているため、先に起きた「電機メーカーの不正会計」による株価下落の損害賠償請求は、「本法律」の適用を受けない。

 企業は、「本法律」に基づく訴訟制度を踏まえ、改めてコンプライアンス体制を強化するなど、内部統制上より一層強化されたリスク管理体制を構築する必要がある。

 さらに、「本法律」では、企業の代表者が被告となることを求めていないが、企業の存亡にかかわることもあり、企業には、独立社外取締役および監査役等が十分機能する取締役会等を機関設計するなど、コーポレートガバナンス体制を確立するために、経営トップの強力なリーダーシップと迅速かつ的確な判断が求められている。

 

 (注)「本法律」では、「事業者」(第2条第2号)として、「法人その他の社団または財団および事業を行う場合における個人」で、国、地方公共団体、独立行政法人等の公法人も含まれているが、上記においては、「企業」を前提に記述した。

【参考資料】
消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(平成25年12月11日法律第96号 消費者庁消費者制度課)
消費者契約法(平成12年5月12日法律第61号 最終改正:平成28年6月3日法律第61号)

QUICK ESG研究所 菅原晴樹

Facebookコメント (0)

ページ上部へ戻る