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【水口教授のヨーロッパ通信】RI Europe2016参加報告 - 欧州で何が話し合われたか? 2016/09/08 ESGコラム

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 2016年6月22日と23日の2日間、今年もロンドンでシンポジウム「RI Europe 2016」が開かれた。2月には東京証券取引所を会場にRI Asiaが開かれたが、RI Europeは参加者数も約600人と格段に多く、議論の内容も幅広い。その中から印象に残った話題をいくつか紹介したい。

1.英国のEU離脱

 シンポジウム2日目の6月23日は、ちょうど英国の国民投票の日だった。総合司会をしたResponsible Investor誌のヒュー・ウィーラン氏は、開会の挨拶の冒頭で「もし離脱になったら、このイベントも『RI Europe プラス』とかに名前を変えないといけないかもしれない」とジョークを言っていた。それに対する会場の雰囲気も好意的だった。そこで感じたのは、少なくともその場にいた人の多くは英国が離脱することを望んでいないし、本当に離脱になるとも思っていないようだということである。その背景には、会場が残留派の多いロンドンだったことに加え、参加者の多くが金融関係者だったこともあるだろう。だが、それだけでなく、会計法現代化指令を改正して内容をより拡充した非財務情報開示指令を発するなど、EUの政策はCSRやESG投資を促進する方向に向かっていたという事実がある。その意味で、英国がEU離脱を選択した今回の国民投票は、ESG投資にとっては残念な結果だった。

2.COP21後のESG投資

 今年のRI Europeの特徴は、昨年12月のCOP21を受けて気候変動をテーマにしたセッションが目立ったことである。初日冒頭の基調講演ではNCE(New Climate Economy)イニシアティブのヘレン・マウントフォード氏が、気候変動対策と経済成長をいかに両立するか、現実的かつ政策的に考えようと呼びかけた。それに続く最初の全体セッションでは、「将来のエネルギー・ミックス、グリーン・インフラへの投資、気候変動テーマの現実」と題して、COP21後の動向を巡って意見が交わされた。

 たとえば金融安定理事会の気候関連情報開示タスクフォースに関しては、世界にはすでに400にのぼる開示フレームワークがあると言われ、タスクフォースは401番目を作るのではなく、既存のフレームワークの整合性と比較可能性を高めることを目指すべきだといった議論がなされた。また、フランスのエネルギー転換法第173条は、上場企業に対して年次報告書で気候変動に関連する財務リスク等を開示するよう義務づけたが、機関投資家に対しても投資意思決定プロセスの中でどのようにESG課題を考慮しているかについての開示を義務づけている。これに関して、フランスではESG投資が進んでいるとはいえ、大多数の小規模な運用機関は十分に対応できていないので、透明性が高まると評価する意見があった。フランスのエネルギー転換法は欧州でも大きなインパクトを持って迎えられたことがわかった。

 2012年にCCLA(教会、NPO、地方自治体向けの運用サービス機関)が立ち上げた「Aiming for A」を名乗る投資家グループは、昨年、BPやシェルに対する株主提案で名を馳せたが、今年はグレンコア、リオ・ティント、アングロ・アメリカンという鉱山企業3社への株主提案を行った。これに関連して、エンゲージメントの焦点が炭素効率(Carbon efficiency)の改善からビジネスモデルそのものへと移っているとの指摘があった。石油・石炭産業の大企業はこの分野のスキルやノウハウの蓄積が多く、エネルギー市場についても詳しいので優位性がある。そこでそれらの企業とエンゲージメントし、内側から変えていくのが効率的だという考え方もあるが、他方で市場が大きく変化するとしたらどうか。エンゲージメントを通して変革を促すのがいいのか、それとも既存企業からダイベストメント(投資の引き上げ)をして、その資金を新エネルギーなどの新興企業に投資する方がいいのか、投資家の判断が問われるという。ダイベストメントとは、単に投資を引き上げるだけではなく、その資金を別の企業に振り向けることだという指摘は、当然のことではあるが、見落とされがちな重要な視点のように思われた。

 初日の午後と2日目の午前は、例年通り、会場を3つに仕切って多くの分科会が設けられた。そこでもポートフォリオのカーボン・フットプリントやLow Carbon Fund(低炭素ファンド)など、気候変動に関連するテーマが多く見られた。そのほか、スマート・ベータ、ビッグデータとESG投資、インパクト・インベストメント、グリーン・ボンド、水ストレス、食糧問題、アフリカへの投資など、多様なセッションがあった。このような各論的なテーマが幅広く設けられている点も、RI Asiaとの違いである。

3.信仰とESG

 初日の午前の2つ目のパネルは、Faith Investing、つまり宗教団体による投資を巡るものだった。このテーマを全体セッションの2番目に持ってきたところに今年の変化が表れている。

 実は、一昨年(2014年)のRI Europeでも同様のテーマがあったが、その時は一分科会の扱いだった。しかも聴衆はまばらだった。フロアの参加者の少なさに、当時の金融関係者の関心の低さが表れていた。Faith Investingはキリスト教の価値規範に根ざしたもので、メインストリーム(投資の主流)とは異質のものと思われていたからだろう。

 それが今年は、英国国教会とニューヨーク州公務員年金との共同株主提案があったことから注目を集めている。英国国教会の資産管理を担当する教会コミッショナー(Church Commissioner)と、ニューヨーク州公務員年金の運用に責任を持つ同州のコントローラー(財務監督官)が連名で、エクソン・モービル社に対して、平均気温の上昇を2℃以下に抑えるという国際的な動きが同社のビジネスにどのように影響するのか報告せよとの株主提案を行ったのである。この提案は、アムンディ、アクサ投資マネジメント、BNPパリバ、CalPERS、ニューヨーク市退職年金基金、ノルウェー政府年金基金などから幅広く支持を集め、同社経営陣の強い反対にも関わらず、5月25日の株主総会で38.2%の賛成を得た。教会系の投資家とメインストリームとの距離が縮まっているのである。

 セッションでは、米国の宗教機関の連合体であるICCR(Interfaith Center on Corporate Responsibility:企業責任に関する宗派間センター)のジョシュ・ジンナー氏から、同国での40年以上にわたる株主提案の活動についての説明があった。宗教団体とはいえ、していることは投資なので、ビジネス・ケースになることが大事だという。メソジスト教会の運用責任者であるステファン・ビア氏からは、キリスト教的な価値と投資パフォーマンスの両立が課題だとのコメントがあった。酒やたばこ企業の除外もするが、気候変動やサプライチェーンの人権問題なども考慮すると言い、後者はキリスト教の価値観というより、社会の共通の価値ではないかとの指摘があった。イスラム金融協会のオマール・シェイク氏からは、イスラム金融の概要の説明があった。いくつかのネガティブスクリーンがあるほか、利息を受け取らないという規範があるが、エンゲージメントは今後の課題のようであった。宗教団体による投資といっても、その内容は通常の責任投資と大きく違うわけではないというのが率直な印象であった。

4.あなたのモチベーションは何か

 初日3つ目の全体セッションは、「リーダーシップと文化と変化:責任投資をどうやってメインストリームにするか」と題したパネルだった。最初にこのタイトルを見たときには、「何を今さら」という印象を受けた。少なくとも欧州では、主要な公的年金がPRIにこぞって署名するなど、責任投資はすでにメインストリームなのではないか。だが、司会をした元ABP(オランダ公務員年金)のロブ・レイク氏による一風変わった、深みのある進行によって、通り一遍のパネルとは異なる、考えさせるセッションになった。

 同氏は、まずセッションの狙いを次のように説明した。インテグレーションやエンゲージメントなど、責任投資を実践するツールはいくつも登場したが、変化を起こすのは人間であり、その中心になるのは人の気持ちである。人の気持ちを変えるにはリーダーシップと文化を変えなければならない。そう言って、彼は600人いる聴衆にこう呼びかけたのである。「皆さん、私を信じますか?どうか私を信じて、まず目を閉じてください」。

 そう言われて、自分も思わず目を閉じた。するとさらにこう言うのである。「ここにいる人は多かれ少なかれ責任投資に関わっているはずですが、皆さんはなぜそれをしているのでしょうか。あなた自身の個人的なモチベーション(your own personal motivation)は何か、考えてください」。

 ここからの進行は秀逸だった。

 「では伺います。自分自身の個人的なモチベーションは財務的リスクの回避や財務的リターンの獲得だ、という人は手を挙げてください。あ、目は閉じたままで」

 「はい、では、手を下して」

 「次に、自分の個人的なモチベーションはもっと違うもの、たとえば社会の公正や地球環境など、そういったものだという人は手を挙げてください」

 ここで「手を下して」とは言わずに、「それでは目を開けて周りを見てください」と言う。言われるままに目を開けると、約600人いる聴衆のほとんどが手を挙げている様子が目に飛び込んできた。今回のシンポジウムで最も印象的な瞬間だった。ESG投資の原点のようなものが思った以上に共有されていることを表していたからである。

 その後、ロブ・レイク氏はパネルの登壇者一人一人に、あなたはなぜ責任投資に関わっているのか、あなた自身の話(personal story)をしてくださいと問いかけ、パネリストがそれぞれ自分の思いを語る形でパネルが進んだ。それは、会場にいた多くの人にとっても、なぜESG投資をしているのか、思い返すための時間になったことだろう。

 たしかにESG投資を標榜する機関投資家の数は増え、さまざまな手法やESG投資商品が提供されるようになった。だが、えてして手法が精緻化し、議論がテクニカルになり過ぎると、本当は何をしたかったのかが忘れられやすい。表面的にESG投資商品が増えても、ESG要因の取り込み方やその程度はさまざまなので、それだけで世界が実際にサステナブルになるとは限らない。それでは結局のところ、最終的な受益者の利益にもつながらないかもしれない。

 そう思って、もう一度タイトルを見ると、そこに込められたメッセージが分かる気がしてくる。社会が向かっている方向を変えるには、誰かがリーダーシップをとり、投資業界全体の文化を変えていく必要がある。その点ではまだ道半ばだ。だから「責任投資をメインストリームに」というタイトルなのではないか。

 これは何も、財務的利益より社会的な価値を優先すべきだといった意味ではなかろう。ESG投資が受託者責任と矛盾しないということは、ここ数年、再三確認されてきた。そのことを踏まえた上で、投資業界も社会と価値を共有していることを発信していくべきだとロブ・レイク氏は言う。PRIの発足から10年をへて、このような議論ができるようになったところに、日本と欧州の違いを見た気がした。

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QUICK ESG研究所 特別研究員 / 高崎経済大学経済学部 教授 水口剛

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